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「信也さん、あなたは夏のこと、どう思ってるの?本当に心配してるの?それとも自分が楽になりたいだけ?」
りりかは、ストレートに信也に、問いかけた。
「僕は仕事を辞めるから、どこか空気のいいところで暮らさないか。と、夏に言ったんだ。それで彼女の気持ちが落ち着けばと。」
「それで夏は?」
「彼女は、仕事を辞めて欲しいなんて思ってないって。」
「そうなの。」
「だから、今も、東京にいる。」
「信也さん、あなたは浮気してるの?」
はっきりと、聞いた。
「夏が、そう言ったんですか?」
「ええ。」
「そうか。彼女は僕に何も言ってこない。」
「だから?黙っておけばわからないって?」
「勇気がなかったんです。気づいてるんじゃないかって思ったけど、自分から言い出せなかった。でも、信じてくれ、彼女とはとっくに別れているんです。」
「そんなこと、夏に言って。彼女は大丈夫よ。」
「信也さん、夏ともう一度本当にやり直したいのなら、きちんと彼女に話して謝って。」
りりかは、優の言うとおり、未知には何も話さず、夏と、福岡へ遊びに行った。優等生の未知に、相談し、助けてもらいたい気持ちがあったが、彼から未知には黙っておいた方がいいと言われたのだ。出来る限り、普通に過ごすことができるように。知らない方がいいこともあると。その変わり、自分の、不幸話を、たくさんしてこいと。
優は、不思議な人だ。あの日、私に声をかけてくれて、一日を一緒に過ごした。いつの間にか、いい相談相手になっている。
そして、もう一つ、彼の言う通りにしたこと。信也さんにも、はっきりと伝えること。
「信也さん、変に考えたりしないで。病気のこと恐れないで。夏に、普通に接してあげて。そして、男性は嫌なのかもしれないけど、不妊治療を一緒にしてあげて欲しい。」
「夏、おかえり。楽しかったかい?」
「ええ。とても。未知も元気で変わらなくて。彼女ね、今福岡にいるけど、転勤で東京へ来るかもしれないって。」
「そうか。そしたら、もっと楽しくなるな。」
「そうね。きっと。」「私も働こうかな。」
「えっ?」
「私ね思ったの。ずっと、信也さんのため、って思って、完璧な主婦でいられるように。って」
「これでも、頑張ってきたつもりよ。」
「もちろん、わかってる。僕は君にとても感謝してる。」「夏と結婚して良かった。僕はそう思ってる。」
「私も働けば、信也さんのことばかり考えなくても済むと思うの。未知は恋人と別れる覚悟で、東京に来るって。彼との将来より、自分の将来を選んだの。私は信也さんがいなきゃ、何も出来ない。」
「夏、今までいろいろとすまなかった。」
そういうと信也は夏を抱きしめる。
「僕は、夏が僕のために居てくれることに甘えていたんだと思う。僕は自分の将来のために君を選んだ。」「夏と同じ、僕も夏が、居ないとだめなんだよ。」「他の女性と関係があった時期も確かにあったけど、僕に必要なのは夏なんだ。夏がいなければ、僕はだめなんだ。今もこれからも。」
「信也さん。」
夏は信也の体に回した腕に少しだけ力を込める。
「僕はどうしたらいい?」「いろいろ考えたんだ。僕なりに。何が足りなかったんだろうって。」「僕は、子供が欲しい。夏。君が本当に働きたいなら、止めろとは言いたくないけど、子供ができたら、やっぱり、ね。僕は夏に今までどおり、家に居て欲しい。どうかな?」
「信也さん。」
夏の目から涙があふれる。信也は夏を、しっかりと抱きしめた。真也にはやっとわかった。これは間違いなく喜びの涙だ。
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