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夏が軽度なうつ状態にあると診断されてから1年が過ぎた。
信也は夏にあった病院を探してまわっていが、もともと真面目な夏の性格は、精神科へ通うことも許され難い行為であるとして自分自身受け入れることができないようだった。そんな日々が続き、症状は確実に悪化しているように思われる。彼女のためになる病院はきっとあるはず。信也もまた苦しんでいた。
3年くらい前からだろうか、夏の様子がおかしくなっていったのは・・。
「夏、大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫。なんでもないわ。」
「そう、ならいいけど、最近あんまり顔色よくないみたいだから」
「ごめんね。お母さん心配かけて。」
「信也さんは元気?」
「ええ。」「あのね。少しだけ寝不足なの。ごめん。今日はゆっくりしたいから・・。」
21歳で信也と結婚。夏は小さなころから、早く結婚してかわいいお嫁さん、かわいいお母さんになることが夢だった。19歳で信也と出会い、短大を卒業後、少しだけOLをしていたが、すぐに結婚を決めた。
8歳年上の信也。大人で紳士的で、とてもやさしい人。この人と結婚することは運命だ。自分の思い描いていた人生の設計図通り、予定通りのことが起こったのだ。夢のようなプロポーズ。夏の21歳の誕生日。二人は夫婦になった。
結婚式の日
「もう結婚かあ。早いね~」
「でも、夏の夢かなったね。昔から言ってた。」
「そうそう、すごい、さすが夏。計画通りに物事を進める女、夏」
「ははは、へんなこと言わないで~。でも、自分でも驚いてる。本当に願いが叶ったから。」
「おめでとー。」「おめでとー。」お祝いの声が、あちこちでかけられる。
「信也さん、夏をよろしくお願いいたします。」
やさしい笑顔、夏にはこの人しかいないと思うような素敵な旦那様で、未知もりりかも驚いていた。
彼女の初めての彼氏、そして結婚、文句のない幸せがそこにはあった。りりかにも未知にも、高校生のころから彼氏がいたが、二人ともそう長続きしない。りりかは、とにかくその頃から、有名なかわいさで、とにかくモテモテ。複数の子と交際していることもあった。違う学校の子からも声をかけられることもしょっちゅうだったし、別れてもいくらでも次がいた。女子からは嫌われそうなタイプにもかかわらず、りりかは、いつも女子からも羨望のまなざしだった。たぶん、彼女は根っからの女で、それは決して策略ではなく天性のものだとみんなわかっていたからだろう。
幸せの絶頂をみんなで祝福したあの日、そして、あれから6年、誰もこんなことになるとは考えてもいなかった。
信也と結婚して3年が過ぎたころ、夏は自分の人生設計が徐々に狂い始めていることに、焦りを感じていた。夢にみる幸せな家族、理想像。しかし、二人の間になかなか子供ができない。仕事が忙しいことを理由に、セックスに消極的な信也を攻めるつもりはなかったが、それでも気持ちが態度に出てしまっていたのだろう。あのやさしい信也がいつの間にか、無口になり夫婦の会話は極端に減ってしまっていた。いつも心は不安で、いらいらが募り、体が疲れやすく、動きたくなくなっていた。疲れた。何もしていなくても、夏はいつも疲れたと思うようになっている。
信也の裏切り。あの優しい信也に裏切られることになるなんて、夏は結婚するときに、考えてもいなかった。
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