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「奈津美さん、これはどう?」
「うーん、こっちの方がいいかも。この方が、全体のバランスはよくなるわ。」
「奈津美さんが、デザイナーだったなんて、知らなかったな。」
「今更だね。私何も話してなかったんだ。」
「そうだよ。何も話してくれない。」
「まあ、ここに来たときは、東京でのことを思い出したくなかったからね。」
「何があったの?」
「昔のこと?・・まあその時のことは、知らない方がいいわ。」
「仕事はね。店舗の内装から広告デザイン、なんでもやったわ。楽しかったし。」
「今も福岡で?」
「まあね。似たようなこと。デザインはやっぱり楽しいわ。」
「そっかぁ。そういう奈津美さんも、見てみたいな。」
良子にとっては、面白くない会話だった。
今までは、ずっと私が、恵斗の作品を並べるお手伝いをしてきたのに。いったい何なの、あの人。
「良子ちゃん。ごめんなさい。ちょっと持ってもらえる?」
奈津美の声が聞こえないように、良子はバックヤードへ姿を消してしまう。奈津美には、良子のことが気がかりだった。彼女はきっと恵斗のことが好きなのだろう。
恵斗は、良子の気持ちに気づいていないのだろうか。
「ねえ、恵斗くん。良子ちゃんのことだけど。」
「なに?」
「彼女、恵斗くんのこと好きだと思うよ。」
「えっ?」
「まさか、気づいてないの。」
「だって、中学から知ってるんだぜ。」
「だからよ。ずっときっと好きだと思う。」
「なんで?」
「なんでって、好きに理由なんかないでしょ。」
「いや、だって、別に僕、彼女に何かしてあげたことなんて一度もないよ。」
「人を好きになるのに、そんなこと関係ない。あなたが一番知ってることなんじゃない?」
「まあ。」「でも、だからって、どうしようもないよ。妹よりも年下だし、妹ぐらいにしか思えないよ。いい子だけどさ。」「そのうち、他の人に目がいくんじゃないかな。」
「だと、いいけど。ちょっと心配だわ。」
「あのさ、奈津美さん。良子のこともいいけど、僕のことも考えてよ。どんな想いでいると思ってるんだよ。いつか奈津美さんが、僕の前から居なくなるかもしれない。僕はそんなの嫌なんだ。わかる?」
「ごめんなさい。」
「はー、奈津美さんは優しいのに、僕には冷たいんだよなー。」
「何言ってるの。」
「ねえ、やっぱりずっとここに居てよ。これからずっとさ。」
「そうね。いろいろ、考えてみるわ。真剣にね。」
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