東京

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東京

「じゃあね。」 「ああ、気を付けて。あんまり無理するなよ。未知はいっつも頑張りすぎるから。」 「ありがとう。」 空港で、手を振りながらの見送り。永遠の別れではないが、おそらく、長続きはしないだろう。未知はそんな気がしていた。彼の方が年下だといっても、たぶん、彼の方が家庭への憧れが強い。きっとすぐにでも、いい人が見つかるだろう。 未知は、智樹と別れる覚悟で、東京へ旅だった。それでも、できるだけ、こまめに連絡を入れるように努力はしよう。彼と決して別れたいわけではないのだから。できれば、彼と結婚したい。 「カンパーイ。」 「意外と早かったね。再集結」 「だね~。よく思い切ったよ。未知」 「これから、頑張らないとー。」 「その後、どう?信也さんとは。」 「うん、うまくやってる。前より不妊治療に積極的になったし。」 「良かったね~。」 「ぶっちゃけ、彼の方に原因ありそうなの?」 「うーん、少しは。でも、大丈夫だって。先生もそう言ってくれてる。夫婦仲良くきちんと向き合えばって。焦らないでって言われても。なかなか難しかったんだけど、今はなんだろう。少し、開き直ってるっていう感じかな。」 「それはよかったよかった。」 「私ねえ。最近思うんだ。言いたいこと、もっとちゃんと言えばよかったって。いい妻でいようって思いすぎて、負担にならないようにとか、いろいろ考えすぎちゃってたと思うんだ。」 「そうねえ。でも、頭からは、離れないから、ストレスたまっちゃうよね。」 「そうそう、ストレスといえば・・超ムカつくことがあったんだ。」 3人のたわいもない話は永遠に続くかと思うほど。元気を取り戻した夏、自分らしく生きることを選んだ未知、まだまだ迷いつづけるりりか。それぞれの道を歩みながらも、一緒にいるときは、いい感じで混ざり合う不思議な関係。 未知は、東京に出てきて、そのオフィスが、福岡よりもかなり広くて、びっくりしていた。商品も比べ物にならないぐらいの展示がある。輸入雑貨が主だったが、最近は、インテリア商材も増えてきて、大型の商品は東京にしかないと聞いている。 (すごっ、高っ、こんなの売れるの?) 福岡で扱っていた商品の何倍するような商品がずらりと並んでいる。商品のことをもっともっと勉強して、しっかり案内できる営業マンにならなくちゃ。 東京では総合職ではなく、完全な営業職となった。ノルマは今まで以上に厳しいが、その分お給料アップが望める。頑張れば頑張っただけ、確実に結果に結びつく。そうマネージャーが教えてくれた。福岡で、ノルマの世界に嫌気がさした時期もあったが、東京の人たちの活気は、今までいた環境とは全く違っていて、ポジティブになれる場所だった。全員が一丸となって、成績アップを目指している。もちろん順位、優劣がつけられてしまうのは、いたしかたないが、結果として、会社が成長していくことを実感できる場所。 東京には、半年に1回、各地からマネージャーやサブマネージャー、成績優秀者などが集まる。成績優秀者の表彰式の準備をするだけでも、今までとは違う風景を見ることができた。未知にとっては、とてもキラキラした世界だった。
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