東京

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未知が東京に出てきたことで、3人は、また時々会おうと約束していた。しかし、各々忙しく、3人が揃うことになったのは、半年を過ぎた頃だった。 「どうしたの?」 「なんか、雰囲気変わった?」 りりかは、再就職したことを二人に報告した。 「そうなんだ。」 「さすがね。美人は、どうにでもなるわ。」 「結構、勇気がいったのよ。これでも。」 「確かに、変わったわよね。」 「今のお店は、少し高くて、自分でそこのお洋服を買うのが大変なのよ。」 「でも、そういう世界はそれが当たり前?」 「そうよ。投資と思わないと仕方ないわね。時々何のために働いてるの?って思うけど。」 「でも、似合ってるわよ。落ち着いてて、いい感じ。」 「良かったわ。私も少し大人になれた。」 「でも、例の彼と付き合っているときは、そんな感じじゃなかったの?結構年上だったんでしょ。」 「まあね。でも、自分の趣味じゃなく、用意されたものだったから、あまり気にしてなかったわ。」 「なるほどね。」 「結構年上の彼って、誰のこと?」 「なんでもない。」 「何よ。内緒にするなんて。」 「まあ、思い出したくはないから。ごめんね。そっとしておいて。」 「えー、未知は知ってるんでしょう。」 「知ってるって言っても、見たこともないし、どんな人かは知らないのよ。お金持ちって以外は。」 「まー、そーゆうことよ。お金持ち。贅沢させてもらってたの。」 「ふーん。訳ありね。」 「まあねえ、それよりさ。やっぱり、イメージ変えたいって思ったから、それなりにしっかりリサーチしてこのスタイルかなって決めたのよ。自分に、似合うかどうか。これはとても大事なことだわ。」 「そーなの。へー。」 「未知は、意外と疎いよね。そういうとこ。」 「そうねえ。まあ、あんまり気にしてないかな。」「でも、私も苦手かも。」夏も同調する。 「特に専業主婦なんて、ふだん出かけるところ限られてるし。」「割と好きな服、繰り返し着てるだけかも。」 「う〜ん。もう少しお洒落した方がいいかなぁ。」 二人はあらためて、ファッションにこだわるりりかをすごいと思った。元々美人なのに、それをさらに完璧にしようとしている。 「あれ、あんなところで、何かあるのかしら?」 3人は、ぺちゃくちゃおしゃぺりしながら、歩いていたところ、いそいそと何かを運び込む人を見て、夏が言った。二人もその方向に目を向ける。 「ああ、この通りね、いくつか展示会場になってるらしいのよ。いろんな催しがあるわよ。って、たまたまこの前、営業途中で通った時に、先輩が言ってたわ。」 「そうなの。ちょっと見てみてもいー?」 「うん。」 「個展の準備中みたいね。」夏が、様子を伺って 「来週からだって。」と、言っているところ、りりかだけは、他の部分を見つめていた。恵斗・・ まさか、あのケイの個展。 だとしたら、ケイに会えるのだろうか。 「夏、絵とか興味あるの?」 「割とね。こういう個展なんかも、ふらりと入ったりするわよ。」 「あっ、そうだ。りりかもか。確か二人美術館で偶然の再会って。」案内ポスターを見つめるりりかに気づいた未知が、そういうと、 「あっ、うん。まあ。」 と、りりかは曖昧に応えた。 「そうよねー。そうだった。あの時、りりかに会ったから、今があるんだわ。ねえ。」 そう言いながら、再び3人は歩き始めた。 恵斗。その日、家に帰ってりりかは彼のことを急いで調べた。けれど、彼の情報はあの個展の案内以外に何も無かった。顔写真ぐらいあるだろうと思っていたのに。 その後も何の手がかりもないまま、りりかは、個展初日、仕事を終えて急いでここへやってきた。初日だもの。彼もこの場所へ来ているかもしれない。そう思ったのだ。 中に入り、絵を見ている風を装いながら、目はキョロキョロとその場にいる人たちを探るように動いていた。落ち着こう。考えてみれば、今更彼にあったからといって、何が変わるというのか。 そう、りりかは自分の気持ちを抑えながら、丁寧にゆっくりと歩いて回った。 しかし。そこにケイの姿は見当たらなかった。 しばらくして、りりかはその場所を出て、入口が見える場所、向かいのカフェのオープンテーブルへ座る。なんとなく、帰る気にはなれない。ケイ、もしあなただったら。個展を開くまでになったこと、おめでとう。と言ってあげたい。
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