東京

5/8
33人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
恵斗の個展は、2週間。ここに来るのは3度目。中には、入りづらいので、目の前のオープンスペースで、時間を過ごす。恵斗らしき姿は相変わらず見えない。 テーブルの前に人の気配を感じ目線を変えると、そこには優が立っていた。どのくらいぶりだろう。彼を見るのは。 「りりかちゃん。」 「・・・」 「座っていい?」 「どうぞ。」 「久しぶりだね。」「なんか、雰囲気変わったね。」「でも、変わらずきれいだ。」 「・・・」 「あの。突然だけど、友達じゃだめかな。」 「その、なんていうか、僕はりりかちゃんがきれいで、可愛くて、最初はそうだったけど、いろいろ相談してくれてる、りりかちゃんの力になりたいから。だから、一緒に居たんだ。力になりたいのは今も変わらない。」「僕は、なんていうか上手く言えないけど、見た目とは違う、りりかちゃんの内面に惚れてるんだよ。男女の関係じゃなくてもいいんだ。友達でも。だから、もう会わないって言わないで。」「あっ、ごめん、何言ってるんだ僕は。」 「気にしないでくれ。じゃあ。」 そういうと、すぐに席を立ち、行ってしまう。 何も言葉にできないまま、優を追った目線は、また個展会場の入り口に戻ってくる。 私は、ケイの何を見ているのだろう。なぜここで、彼を待っているのだろう。友達。私はケイと友達になりたいの? 個展会場から、一人の女性が出てきてカフェで何かを買っている。前にも見た女性、たぶん、この個展の関係者。キリッとした目が印象的だ。彼女は恵斗のことを知っているのだろうか。それとも、ただの会場関係者だろうか。 彼女がこちらを向いたのであわてて、視線をそらす。りりかのことは、見えない様子で、そのまま会場に目をやり、少し早歩きで会場に戻った。 今日もまたケイは現れない。 彼が、ここに来ることはないのだろうか。 さっきの優の言葉を思い出していた。 友達になりたいと言う彼。連絡を取らないと、もう会わないと決めた時も、彼は穏やかで優しい人のままだった。 本当に家庭は上手くいっていないのか?ただの単身赴任なのか?りりかには、わかりようもないこと。名前のまま、優しい彼。きっと、家ではいいパパなんだろう。信じちゃだめ。 夏のことを思い出す。浮気をした旦那、結婚していることを知って関係を持つ浮気相手。なんて酷い人。そう、そういうこと。私はそうなっては駄目なのだ。 でも。もし。彼の奥さんも浮気していたとしたら?夏みたいに良き妻でいることに一生懸命で、旦那さんの帰りを待っている、そんな人じゃなかったら?彼が、言うように、仕事にかこつけて好き放題してる人だったとしたら?どうだろう。 優がかわいそうだ。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!