東京

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「おかえりなさい。」 「ただいま。」 「智樹。友達は?元気だった?」 「ああ、変わらないよ。でも、仕事は忙しそうだったな。」 「玲奈。ごめん、今日はなんか疲れてるな。」 「ううん、大丈夫よ。私が、会いたいって、わがまま言ったんだし。顔を見れて良かったわ。今日はもう帰ったほうが良さそうね。」 「いや、せっかく出てきてくれたんだ、ご飯だけでも食ってかえろ」 「うん」 「向こうでは、何か美味しいもの食べた?」 「まあ、でも、あいつも、そんな詳しくないからって、こっちでもありそうな居酒屋とかだったよ。」 「あっ、そうだ。うっかりしてた、これお土産な。頼まれてたものと、これはなんとなく、玲奈が好きそうかなーって思って、買ってきたんだ。チーズケーキだけど。」 「ありがとう!一緒に食べる?」 「いや、お母さんにも。家で食べるといーよ。」 「そうね。お母さんも喜ぶわ、きっと。」 それから、智樹は未知との時間を振り返りながら、玲奈には、かいつまんで東京での出来事を伝えた。もちろん、彼女は智樹が男友達と一緒だと信じているはずだ。 玲奈にも、未知にも、ウソをついている、こんなに自分が優柔不断で、弱い人間とは思わなかった。後悔しているといえば、そうだ。でも、今どうしていいのかわからない自分がいる。 「ねえ、智樹の誕生日どうする?」 「仕事の日だしな。」 「遅くなるかもしれないし、次の休みにでも、祝ってくれる?」 「じゃあ、ご馳走つくるわ。」 「ああ」 「でも、やっぱり誕生日当日のほうがいいけどな。」 「まあ、お互い仕事だ。また、新しいチームで忙しくなる。玲奈も、遅番がつづくんじゃなかったか?」 「そっか、そうだった。そうだね。じゃあ、土曜日は、約束ね。」 「ああ」 玲奈を見送り、智樹はキャリーバッグを引きながら、未知との時間をまた思い出していた。俺はいったい何しに東京へ行ったんだ。未知の住む世界とこれから。彼女とは、一緒に歩いていけない。それをあらためて、確認し、それなのに、何も言えなかった。彼女の頑張ってる姿、笑顔、きっと無理しているところもある。決して泣き言を言わない、未知のいいところ、何も変わっていない。だからこそ、俺たちは、平行線のままだ。 玲奈はかわいい。素直だし、俺に合わせてくれる。少し控えめなところも付き合いやすい。なのに、なにかが足りないと思ってしまう。バカだな。玲奈と一緒にいれば、俺自身も無理することなんてないし、それなりに楽しくやれるのに。でも、東京で、未知に会って、彼女の頑張っている様子はとてもよくわかった。俺にたいして、大事に思ってくれてることも。決して、彼女は俺以外の男なんていない。ただ、仕事に一生懸命なだけだ。彼女を好きだという思いが心に広がる。だからこそ、別れを切り出せなかったのだ。誕生日、未知からの変わらない連絡を期待している。そんなとき、玲奈と一緒にはいられない。だからといって、玲奈のことも手放せない。一生懸命に俺のために、いろいろしてくれる玲奈。玲奈のことも、もちろん好きなんだ。
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