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2年後
「ねえ信也さん。この前ね、ちょっと気になる絵があったんだけど、今度一緒に行かない?」
「ああ、いいけど。どこの美術館?」
「ううん、個展なの。」
「2年くらい前に、偶然ね。その人の個展をやっていて、入ってみたの。素敵だったわ。癒される風景、でもね、同じ構図で、今回は、デザイン画があるみたい。案内が来たのよ。行ってみたいわ。」
「へえ。いつから?」
「この前見た作品も、油絵もあれば、水彩画もあって、すごい写実的ってわけでもないんだけど、でもその風景を見てみたいって思うような絵だったわ。うまく説明できないけど。」
「そうか。まあ、楽しみにしとくよ。」
「琴音も一緒にいけるかな。」
「大丈夫と思うわ。場所的にはベビーカーでも、問題ないところよ。中にいる時に大人しくしてくれてるといいけどね~。琴音ちゃん。」
「でも、やっぱりシッターさんに預けて行こうかしら。久しぶりの外出だし、できれば、二人でデートを楽しみたわ。ねえ、とう?」
夏と信也の間に待望の子供が生まれて。7ヶ月が経っていた。夏は、信也との生活に満足し、幸せな日々そのもの。信也も会社でのポジションを確立し、また、出世の道を徐々に歩いていた。そのためか、帰ってくる時間が少しずつ遅くなりつつはあったが、信也は、できる限り夏と、琴音と一緒に過ごしたいと、休みの日をとれるようにしてくれているし、子育てにも、家事にも一緒に取り組んでくれている。
そして、2週間後、信也と奈津美は再会する。
(なんで、こんなところに?)
視線の先に捉えた女性の姿は、間違いなく奈津美だ。
「ねえ、これ素敵じゃない?」
夏は、ひとつの作品の前に止まり、信也に話しかけた。
「そうだな。」
信也は、少しうわの空。
「でも、実はあれもいいなーって。」
そう言うと、夏は歩き出した。
「いらっしゃいませ。」
「奈津美が、夏に声をかけている。」
夏はペコリと頭を下げた。
「お気に召されたものがありましたか?」
「ええ、とても素敵で。同じ構図で表現が違う2つを並べて。全然表情が違うけど、どちらもいい。面白いわ。」
「ありがとうございます。ごゆっくりご覧くださいね。もし、何かありましたら、お声掛けください。」
そう言って、奈津美は夏の側から離れ、先程、奥へ行ってしまった紳士ともう一度話始めた。
信也は、その後すぐに、夏の隣にに立つ。
「これも、素敵よね。ねえ、信也さん。やっぱりどれか買ってもいいかしら。」
「ああ、でも、どこに飾る?」
「そうねえ。玄関に飾るなら、もう少し小さめの方がいいわね。」
「・・・」
奈津美を、みたくても見れない。声を聞きたくても聞けない。信也は、そんなもどかしい状況にいたが、誰にも気づかれることはなかっただろう。当の奈津美本人にさえ。
しばらくして、信也は、少しほっとした気分でそこを出る。夏が今日は決められそうもないから、またにすると言ったのだ。
そして、
「そうだ、信也さん、ちょっと待って。ポストカード、買ってこようかな。確か入り口のところにあったわ。」
「ああ、そうだったかな。僕はちょっとそこで待っておくよ。ゆっくり行っておいで。」
「じゃあ、気になるいくつかを買ってくるわね。」
そう言うと、夏はまた中に入っていく。しばらくして戻ってくると、
「やっぱり迷うわ。」
「でも、早くしなくちゃ、売れちゃう可能性もあるわよね。1つしかない作品だもの。」
「なんとなく、あそこにいた女性にも聞いてみたの。売れちゃいそうかどうか。どれが評判がいいか。いろいろお話しできて良かったわ。でも、やっぱり最後は好みだからって。なんとも言えないから、また、いつでもいらっしゃって。っだって。」
「まあ、他の誰かの手に渡ってしまうかもしれないけど、それも縁というやつだ。自分がこれと思うまで、ゆっくり考えるといい。」
「ええ、そうするわ。」
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