2年後

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「智樹も、ずいぶんと東京に慣れて来たね。」 「まあ、何度も来てるもんな。結局。未知がなかなか会いに来てくれないから、俺が来るしかないだろ。」 そう、少し怒ったように言いながらも、顔は笑っている。 智樹には、すぐに新しい恋人ができて、私は振られるだろうと思っていた未知は、彼がこうやって東京に会いに来てくれることに、ただただ感謝していた。仕事も順調だし、智樹に会える週末が楽しく、福岡から思い切って東京へ来て本当に良かったと思う。 グループリーダーになった未知は、仲間ともうまくやっている。社歴では先輩だったが、東京では未知の方がいろいろ習うことも多くて、最初のうちは、相手が気を使うんじゃないかとか、必要以上に自分の言動に気をつけていたが、心配する必要もないぐらい、メンバーはみんな気さくで付き合い易かった。 順調に新規営業先も伸ばすことができ、近々さらに昇給できそうだ。そんな話を智樹にしながら、智樹の会社での立場やこれからのことが話題になった。 「未知、これからどうする?」 「そうだねー。どこ行こうか。」 「あっ、そうじゃなくて、将来のこと。東京に来て、2年以上経つだろ。このままずっと、続けるつもりなんだよな?」 「仕事?できればそうしたいと思ってる。」 少し声が小さくなってしまう。 「あれ、りりか?」 目線の先には、一人テーブルに座る女性がいた。 「同級生の?」 「そう。たぶん、りりかだ。」 「美人だな。」「あんなところに一人でいたら、男に声かけられるだろう。」 そう話していると、彼女は席を立ち、歩き出した。 「あっ、どうしよ。まいっか、せっかく智樹と一緒にいるんだし。」 「俺はいいよ。声かけても。りりかさんにも興味あるし。」 「何、美人だから?」 「まあねえ。」「って、未知の友達に彼氏だって紹介されてみたいだけ。」 「俺たちも行ってみるか?」 そういうと、りりかが入った個展会場の方へ未知と智樹は歩いていく。 「松西恵斗って有名人?」と智樹は聞く。 「さあ、わからないわ。」 個展は、明日の午前中までになっている。 「せっかくだから入ってみようか。」 「いらっしゃいませ。」 ぺこりと頭を下げる。二人とも始めて入るこの空間に少々気後れしていた。 「初めてこちらへ?」 「はい。たまたま、通りかかって・・。」 「そうですか、ありがとうございます。どうぞごゆっくりご覧になってくださいね。」 建物の奥に、りりかの後ろ姿、その前に立っているイケメンの男性。(彼が松西恵斗だろうか。りりかは、彼に会いに来たのかな?) 「素敵な絵ね。」 仕事で輸入雑貨を扱う未知は、ポスターや絵、ポップなどを目にする機会も多いが、その多くは大量生産品。やはり画家が描く1点もののそれとは全然違う。未知はその作品にとても魅力を感じていた。 一方で、智樹は、さっき挨拶をした女性をどこかで見たことがある気がして気になっていた。智樹は、何度もチラチラとその女性へ目線を送る。 「いらっしゃいませ。」 また、新たな客がやって来たようだ。 さっきの女性がすばやく歩みより、自分たちがいる場所とは違う方へ案内をしていき、残念ながら智樹の視界からは消えてしまう。 「未知、りりかさんに声かけなくていいの?」 絵にはそれほど興味がわかない智樹は問いかけた。 「あっ、そうね。つい絵に見とれていたわ。でも、りりか、彼と知り合いなのかしらね。」 「すげー、イケメンだよな。りりかさんならお似合いだけど。」 また、一人の客が入ってきた。 (ふーん、こんなところに結構人が来るんだな。)
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