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「懐かしいです。あの頃は、私も慣れない土地で必死でした。」
「福岡へは、長くは居なかったんですか?」
「そうですね。福岡は福岡で住みやすいところでしたけどね。」
「ですよね。僕は時々しか東京に来ないから余計だけど、本当のところは、なかなか東京は慣れないもんです。」
「今でも、福岡で?」
「そうです。僕は、そのまま、その時の会社にいます。柴咲は、転職したけど。なんだろうな、意外と僕はあの会社が好きなんですよね。ちょっとのんびりしてますけどね。」
「そうでしたか。」
「智樹。私達そろそろ行く?」
水嶋という女性と、未知がわからない話で盛り上がっている智樹に、しびれを切らして、声を掛けた。
「ああ、ごめん。ごめん。そうだな。りりかさんはどうするの?」
「そうね。じゃあ、私も一緒に出ようかな。」
「水嶋さん、またいつか個展されますか?」
「そうですね。できれば定期的に開催したいとは思っております。」
「松西の作品は、たくさんありますし。」
「他にも?」
「ええ、ここ最近は、また違う絵を描いています。」
「皆様には、その時には必ずご案内を出しますから、ぜひ、今後も応援してくださいね。」
私達3人は、個展会場出て、なんとなく歩きだした。
「ねえ、りりか、あの松西恵斗って人、もしかして元彼?」
「やっとね、やっと会えたの。いつも私の心の中に彼がいて。なんだか、忘れられなくて。」
「そっかー。そんな人がいたんだ。知らなかった。りりかって結構乙女。」
「彼がさ。りりぃ相変わらず綺麗だねって。」
「おっ、もしかして、いい感じになったの?」智樹が嬉しそうに言う。
「ううん、そうゆんじゃないの。彼はね、『俺はずっと彼女に夢中なんだって。』私にそう言ったの。」
「彼女?」
「そう、さっきの女の人。」
「うそ。水嶋さん?」
「確かにきれいな人だったけど。」
「それでね、分かったの。彼が必要としているのは、あの人みたいに、かっこいい女の人なんだよ。あの人はたぶんきっと、私みたいにウジウジなんてしてないと思う。彼に好かれたくて自分を作ったりしないと思う。」
「りりか。」なんとなく、次の言葉がみつからない。
「あーあ、私なんなんだろう。なんでこうなんだろう。優も峰岡さんも不倫だし、私が一途に思った彼は、別の人を一途に思ってる。なんかバチあたってるのかなー。」
「優って、博多に一緒に来てた彼よね。」
「そうそう、彼もね、実は結婚してたのよ。」
「うそでしょ。」
「もう、悲し過ぎる。あっ、だから、もう二人共もちろん別れたのよ。言ってなかったけど。」
「まあ、例のおじさんとは、別れたんだろうなと、薄々は気づいてたけど、そっか。あの彼もね。優しそうな人って、その人といい、夏の旦那さんといい、なんだろう、平気で嘘付くのね。」
「ほんと、嫌になっちゃう。」
こんな二人の会話を、智樹は複雑な気持ちで聞いていた。平気で嘘を付く。平気な訳でも無いけど、嘘をつくしかない。そうなんだよ。決して平気なわけじゃない。これから、僕はどうしよう。
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