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「りり」
「会いたかったぁ~」
「僕もだ。今回は3日間こっちにいる予定だから。昼間も時間とれる時は、ホテルに寄るよ。」
「ええ。」
「いい娘にしてるんだぞ。今日だけは遅くなるけど・・」
「はい。」
彼とホテルに入って、いつものように抱かれ、そして彼は出て行った。一人残った部屋で、りりかは天井をぼんやりと見つめている。連絡があったのは1週間前。福岡へ行くから来ないか、とメールが来たのだ。待ち合わせの場所と時間の連絡がきて、その時間に私は彼の好みの洋服を着てその場所にいる。
未知には、悩みを聞いてもらうつもりでいたが、なぜだか、悩んでることは言えないままだった。嫌味に聞こえただろうか、働かなくていーなんて、何気なくついて出た言葉と、未知の複雑な表情が思い浮かび、今は後悔していた。
このホテルでも、いつものように、食事が自由にできる。好きなものを好きなだけ食べなさいと言われている。洋服は彼の好みで、場所に合わせた振る舞いを守っている。もちろん私の好きな服も買ってくれるし、普段は自由だからお洒落もそれなりに楽しんでいる。昨日は私らしいお洒落をして未知に会いに行った。彼女がバリバリのキャリアウーマンだと聞いていたからだ。
6年ぶりに会った彼女は、想像していたよりも、地味な感じだったが、高校生のころと変わらない、利発さがみえ、自分の足で歩く彼女をうらやましいと思った。だからか、りりかは自分の不安や迷いを見透かされたくなくて、自然と満たされているような態度をとっていた。
本当は彼の強引さに少し疲れ始めている。突然の呼び出しはいつものことで、逆らうことはできないような、どことない威圧感がある。付き合い始めたころは、それも魅力に感じていたのに、今では少し恐怖にさえ感じる。ベッドでももちろん彼の命令に従い、いつの間にか、彼の好みの女を演じることができるようになり、抱かれる喜びよりも完璧に演じることができた自分をほめたい気持ちになる。何も彼は疑っていないはず。私は彼に夢中で、彼から離れることができない女になっている。彼はそう信じているに違いない。
ふと、未知の「ほかにいくらでもいるでしょ」という言葉が頭をよぎった。
りりかは、急に起き上がり、身支度を済ませて部屋を出た。部屋の中にいても何も始まらない。今日は彼が遅くなることは間違いないから、時間はある。りりかは、気を取り直すように、右も左もわからない博多の街を散策することにした。忘れていたことを思い出したのだ。大勢の仲間と楽しく、笑い合っていた日々を。誰とでも、すぐに仲良くなれるのはりりかの得意技。知らない街だろうと、知らない人だろうと関係ない。そんな自分をすっかりあの恋が忘れさせ、今の恋愛はりりかを型にはめようとしている。
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