34人が本棚に入れています
本棚に追加
知らない電話番号。誰だろう?そう思いながら未知は電話に出る。
「あなた誰?」
電話の主はいきなり、そう言ってきた。
「誰って、あなたこそ誰?」
「私は智樹の彼女よ。」
突然すぎる出来事に、未知は混乱していた。
彼女?智樹が付き合っているのは私のはずだけど。
「どうして、私に電話を?」
「あなた、この前の休み智樹と一緒だったんでしょ。」
「智樹の様子がおかしいから、浮気してるって、ピンと来たの。智樹に近づかないで。」
「今、あなたが電話してること、彼は知ってるの?」
「知らないわよ。もちろん。」
「なぜ、私が浮気相手だと思うの?」
「電話の履歴見たのよ。間違いなくあなたに会ってるはずよ。」
彼女が、怒れば怒るほど、未知は妙に冷静になってきた。智樹に、私以外に付き合っている子がいる。話しの様子から、きっと、若い子だろう。でも、彼女は悪くない。私が、彼女よ。と、対抗する気にはなれない。かといって、嘘もつけない。迷ったが、未知はそっと、電話を切った。
もちろん、すぐに電話はかかってきた。しかし、そこからは無視しつづける。私にはどうすることも出来ない。
その日、智樹から、一言『ごめん』とだけメッセージが来たが、返信はしていない。
つい、この前の休みの日、智樹とこれから先のことを話したばかり。こんなこと、夢ならいいのに。
東京に来て、仕事も順調で、智樹とも上手くいくって思っていた。確かに、無理をさせているとは思っていたけど、結婚することも考えて、別居婚という選択肢もあるよね。と未知は、自分の考えを伝えた。
智樹は、熱心に私の話を聞いてくれたし、子供ができたら、未知の方が大変になるよ。って、私のことを心配してくれた。子供を産むことだけは、変わってあげられない。生まれてからも遠距離っていうのは、さすがにつらい。そう、智樹も自分の気持ちを伝えてくれた。
未知は、我儘かもしれないけど、子供ができたら、仕事は辞めようと思う。そして、あなたの元へ行きたいと、素直に伝えたのだ。もちろん、智樹も喜んでくれていると思った。これから、結婚に向けて私達は動き始めると思っていた。約束をした・・・つもりだった。
だからだろうか、彼は、私との結婚を考えて、あの電話の主に、別れを切り出したのか?いや、違う。彼女は、私に電話をしたのは、携帯の履歴を見たからだと言った。少なくとも、あの智樹が、私をただ騙すようなことはしないだろう。彼は優しい。だからこそ、私とのこと、彼女とのこと、考えて悩んだに違いない。いつからなのだろう、彼女との付き合いは。
智樹から電話がかかってきたのは、翌日になってから。
「未知、ごめん。その。」
「私はどうしたらいい?」
「ごめん。」
「彼女とはいつから?」
「彼女とは、別れる。少し時間をくれ。」
別れる?そんなことできるのだろうか?
私は浮気相手と認識されている。浮気相手が彼を奪う。彼女にきっと恨まれちゃうな。そんな呑気なことを未知は考えていた。思考能力は完全に低下している。どこか他人事のような感じ。すーっと心が離れて行くのを感じていた。
最初のコメントを投稿しよう!