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恵斗の個展は終わり、今は他の催し物をやっている。あの会場が見えるオープンカフェに、りりかは、時々やってきて今でも時間を潰している。
すっかりここに来ることが、癖になってしまった。
コーヒーを飲みながら、ぼんやりしていると、
「りりかちゃん。」
と、声を掛けられた。
「久しぶり。」
そう言うと、直ぐに席に座る。
「りりかちゃん、僕にもう一度チャンスを下さい。正式に離婚しました。」
と、優は切り出した。
「うそ。」
と、りりかは驚きを隠せない。
「もともと、僕らは無理だったんだ。分かっていたけど、離婚は避けたかった。子供のこともあるし、世間体もあるし。でも、僕は、りりかちゃんに本気で恋をしました。」
「優」
「りりかちゃんのこと、大切にする。絶対。前にも言ったけど、僕はりりかちゃんの見た目だけじゃない。もちろん、見た目も好みだけど、正直。でも、それ以上に大事なのは、一緒に居たいって、力になりたいって気持ち。りりかちゃんに頼りにされたいんだ。頑張るよ。」
「信じろって言うの?」
「信じて欲しい。」
「でも」
「りりかちゃんを幸せにしたい。りりかちゃんと幸せになりたい。りりかちゃんの傍に居たい。」
「優」
りりかの頬をすーっと涙が伝う。嬉しい。
「智樹、もういいよ。」
「未知。」
「もう無理だよ。」
「玲奈さんだっけ?彼女の所へ行ってあげて。私は大丈夫よ。」
玲奈は、智樹と絶対に別れたくないと言っているらしい。智樹は、玲奈の両親とも面識があるらしく、家族総出で責任追求されている。智樹が彼女に求めたものがあるはず。だからきっと、私といるより、彼女といた方がいい。その方が智樹もきっと無理をしなくてもいい。
「わかるでしょ。彼女にはあなたが必要なの。大丈夫、私はこれからもっと仕事をする。智樹はそんな私嫌いなはずよ。」
「未知。」
「未知は俺のこと好きだった?」
「智樹、我儘ばかりでごめんね。大好き。ずっと智樹に支えて貰ってた。あなたが居てくれて良かった。」
「なら、」
「でも、無理なんだよ。たぶんこの先、不安になる。浮気は、やっぱり許せない。信頼できるって大事なことでしょ。信頼してたから、遠距離でも頑張れた。智樹が私に向けてくれた優しさや、楽しさ。嘘だったのかな?って。嘘じゃないとしたら、どんな顔をして、彼女と一緒にいたの?どんな顔して、彼女の両親にまで会ったの?どういうつもりだったの?私にはわからない。」
「智樹くんと別れたってほんと?」
「うん。」
「りりかこそ、彼と付き合ってるってほんと?」
「うん。優、とても優しい人よ。」
「まあ、わかるけど。」
「あっ、夏、琴音ちゃん」
「かわいいー。」
「いい、天気になって良かったね。」
「ほんとー」
「あっ、来た!」
と、りりかは彼に向かって手を振る。
「お久しぶりです。」
「福岡で会って以来ですね。」
「あの時、ほんとはびっくりしたんですよー。」
「え?未知は優さんと会ってたんだ。」
「そうそう、夏が先に帰って、急にね、りりかが連れてきたの。」「りりかのお供!なんて、紹介されてね。」
「でも、優さんのおかげなのね。この前、りりかから、いろいろ聞いたわ。あの頃優さんに助けてもらったって。私に気を使って言えたなかったこと。私達のこと見守ってくれていたこと。」
「りりかをよろしくね!」
と、未知と夏、二人は両側から、優の肩に手を置き元気に言った。
優は、「もちろんです。」「二度と失敗しないんで!」と、真面目に、でも冗談っぽくもある、そんな張り切り過ぎの優に、みんなで笑い合った。
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