十八、桐沢菖子

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「……え?」 「お怪我はございませんか?」  顔を上げると、私を抱きとめてくれた人がわかった。京様の秘書の相良さんだ。相良さんは動じるどころかいつものポーカーフェイスのままで、もう一度問いかける。 「お怪我は?」 「……あ、ありません」 「では離れていただいた方がいいかと。未婚女性がむやみやたらと男と触れるのはよろしくないかと思います」 「……はい」  私を抱きとめているのにこの反応。普通の男なら顔を赤くして喜ぶのに、相良さんはまるで興味なさそうだ。その間にも京様はこちらから遠ざかっていく。 「桃!」  桃さんを呼ぶ声の後には扉が閉まる音もして、この計画も失敗に終わった事を理解した。  その後も計画はことごとく失敗した。  旦那がダメなら奥さんを。揺さぶりをかけようと思って京様がいない間に桃さんを訪ねてみても。 「京様が私の部屋にこちらをお忘れになったのでお持ちしました」 「ありがとうございます……ですがこちらは京様の物ではないようです」  ネクタイピンを差し出した瞬間に即答される。そんなすぐにばれるような物は渡してない。シンプルなデザインだけど純金でできた一流品だ。 「いや京様の物ですが」 「いえ、こちらは違います」 「何で断定できるんですか?」 「京様の私物は全て把握しておりますので」  ――は? 私物を全て把握している?   京様は決して私物が少ないわけではない。社交の場に出る事も多いから、身だしなみにはかなり気を使っている筈だ。それなのに全てを把握している? 「え、何言ってるんですか?」  思わず聞き返した。
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