一、久野桃

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 その頃には屋敷中の使用人が持ち場についている。ダイニングの扉を別の使用人が開け、京様に続いて中に入ると、既にテーブルいっぱいに朝食の用意がされていた。京様はそれを一瞥すると使用人が引いた椅子に腰かけ、用意されたコーヒーカップを手に取った。 「……サラダとスープ」 「かしこまりました」  指示されたものを取り分けたら、次の仕事。毎朝朝食をとりながら世界主要国の経済新聞を読むのが京様のルーティンだ。椅子の隣に膝をつき、タブレットを掲げて京様の視線に合わせてページを捲る。 「もういい」 「はい」  朝食を終えたら京様は部屋に戻ってシャワーを浴びる。それに付き添い、スーツの着替えを手伝い、そして。 「いってらっしゃいませ」  屋敷の玄関でお見送りする。そこで朝の仕事は終了。  京様を見送った後は使用人の仕事は大きく二つに分かれる。屋敷中の掃除や洗濯を行う者と、体を鍛える者。私の仕事は後者だ。 「桃、お疲れ」 「お疲れ」 「今日はどれからやるんだ?」 「シューティングから」 「じゃあ俺は筋トレからやるわ」 「こっちでマシン使うからな」 「わかった」  屋敷にはお付きである私とSP部隊専用のトレーニング施設がある。ありとあらゆる事態を想定した設備の中で、いつどんな時も京様を守れるように、常に体を鍛えておく。
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