十八、桐沢菖子

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 それが轟家だ。 「ここが使用人専用のお風呂よ」  こんな家があるなんて思わなかった。 「朝食はここで午前六時から八時までいつでもとれるようになっているわ。仕事によって時間が違うから先輩に聞いてね」  玄関のシャンデリアも、飾ってある絵や壺や花も全部高そうだし。 「奥が図書室でそっちがトレーニングルーム。図書室を使いたい時は当日朝までに私か室次長まで申告してね」  お屋敷だけでうちの何倍も広い。庭も入れたらどれくらいなんだろう。豪華で綺麗で広くて煌びやか。でもいやらしくない。こんな場所が個人の邸宅だなんて信じられなくて、ついつい目移りしてしまう。  そんな中、メイド長の長崎さんがふと足を止めた。 「京様」  轟京様。名前だけしか知らない、この家の主人だ。  ――どんな人なんだろう。  長崎さんの横から覗き込んで、時が止まった。 「お戻りでしたか」 「昼食に寄っただけだ。仕事に戻る」 「いってらっしゃいませ」 「ああ」  この人にはモデルだって芸能人だって勝てない。それくらい整った顔をしている。でも顔だけじゃない。スタイルだって抜群だし、足も長い。スーツだってパパが着ている物の何倍も高そうだし、靴も時計も一流だ。  ――こんなカッコイイ人見た事ない。  胸が高鳴って視線を逸らす事ができなかった。だけど、京様はこちらをちらりと見ただけで、すぐに行ってしまう。 「あ……」 「さあ、私達も行きましょうか」 「あの人が京様ですか?」 「ええ。この屋敷の主よ」  長崎さんは平然と言って歩き出す。だけど、こっちは胸のドキドキが治まらない。こんな大きなお屋敷の主人があんなカッコイイ人とは思わなかった。お金持ちでカッコイイなんて。
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