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「あの、京様って結婚してるんですか?」
「え? ええ。されてるわよ」
「……そうなんですね」
――残念。
思わず出そうになった言葉はすんでのところで飲み込んだ。
こんなにカッコイイ人もこんなお金持ちも見た事ない。紹介なんかいらないからあの人がいい。それなのに他の女のモノだなんて、早速労働意欲がそがれてしまう。
「はあ……」
「どうかした?」
「いえ……」
嫌な気持ちを振り払うように、せめて綺麗な装飾でも眺めようと顔を上げた。
「あら」
見つけたのは多分長崎さんと同時だ。
廊下の奥から異様に大きなワゴンを押した女性が歩いて来る。上の段にはこれまた大きな花瓶、下の段にはお皿の山。紺色のワンピース姿のその人は、着ている物こそメイド服じゃないけれど同じ使用人だろうと思った。でも。
「桃、ダメじゃない!」
「長崎さん、お疲れ様です」
「お疲れ様じゃないわよ!」
長崎さんは何故か駆け寄って、桃と呼ばれた人からワゴンを奪おうとする。
「食べ終わったならベルで誰かを呼んでってお願いしてるでしょう」
「でもこれだけですし、私は仕事もないですし」
「当たり前でしょ。この花瓶は?」
「図書室前のお花が痛んでいたので変えてもらおうかと」
「だからそれも私達に言いなさいって!」
長崎さんの口調はさっきまでの固いものとも京様に対する畏まったものとも違う。まるでおばあちゃんがママを心配する時のような砕けた口調。対する桃さんも困りながらも嬉しそうな笑みを浮かべていて、メイド長と他の使用人にしては違和感を覚えた。
「あの、この人は?」
「新しい方ですか? 轟桃と申します」
「京様の奥様よ」
「え……?」
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