十八、桐沢菖子

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 そうと決まれば行動あるのみだ。まずは京様の視界に入る。この屋敷には若い女性自体が少ないから、視界に入るだけでも絶対に関心を引ける筈。そう思った。  なのに。 「では次のスープの配膳を……」 「はい! 私が行きます!」 「あのね、これは責任ある仕事だから」 「でも早く仕事を覚えたいんです!」  せっかく京様に近づける仕事を獲得しても、京様は私を見てくれない。桃さんにべったりだ。 「本日のスープ、新玉ねぎのポタージュです」 「桃、そのパンは好きか?」 「クルミが入っていてとても美味しいですが……あの、京様も召し上がってください。スープがきましたよ。あ、ありがとうございます」 「桃は甘味のある物の方が好きだな。もう少し種類を増やさせるか」  これだけ広いダイニングなのに、二人はなぜかこじんまりしたテーブルで横並びに座って食事をとる。それどころか。 「ほら、これも食べろ」 「ちょっと京様っ」  京様はパンをちぎって桃さんの口に運ぶ始末。よく見れば二人の間に隙間なんてないし、京様はしょっちゅう桃さんのどこかに触れている。桃さんは顔を真っ赤にしてはいるものの押し負けて口を開けて食べさせてもらっているし、私は何を見せつけられているんだろう。  テーブルマナー的にも格式ある家の人がこんな事をしていいのかと思ってしまうけど、他の使用人達は平然としているからこれが初めてではないんだろう。
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