十八、桐沢菖子

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「全部⁉ 全部ですよ?」 「はい」 「服も鞄も靴も小物も⁉」 「そうです。働いていた時に京様の私物の管理・補充を担当させていただいていたので、今もその名残で任せていただいているんです。ネクタイピンも毎日私がお出ししておりますから、間違いなくそれは京様の物ではありません」  わざわざお持ちくださってありがとうございます。桃さんは本当にこちらの思惑には気づいていないらしい。申し訳なさそうに軽く頭を下げる。  その旦那の浮気を微塵も疑っていませんなんて態度も癪に障る。 「こちらこそ失礼しました!」  自然と語気が強まった。  不倫を匂わせるくらいじゃダメなら、弱みを握るしかない。使用人の分際で主人に取り入って嫁にまでなったのだから、裏の顔もあるに決まっている。そう思って今度は桃さんを一日中見張った。けれど。 「うん、今日はここまでにするね」 「お疲れ!」 「お疲れさん」 「お疲れ様」  お金持ちの奥様だっていうのに午前中はずっとむさくるしいSPに混ざってトレーニング。午後も自室か図書室で勉強ばかりでそれらしい事は何もない。  旦那の金で散財でもしてくれれば指摘できるのに。 「奥様、こちらのジュエリーはいかがでしょうか? とてもお似合いになるかと」 「先月、その……主人にいただいたジュエリーがありますからこれ以上は……」 「でしたらワンピースはいかがですか?」 「着る体も一つしかないですし。それよりお願いしていた男性用のバスローブとカジュアルシャツを見せていただけますか?」 「勿論です! 最高級の物をご用意致しました!」  その様子もない。
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