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今日、ふたりで過ごす時間ができれば、自分の心が計れると思っていた。
前回は、久々の再会に舞い上がっていたけど、それは、ずっと再会を願っていた自分の心が、単にそう思わせていただけかもしれない…と。
ひと月の間、それなりに大人の冷静さを取り戻していたつもりだった。
でも、短時間でもこうして、恋人同士のような時間を過ごしてみると、ただの懐かしい人との再会、というだけに留めておくのが惜しくなった。
大人になった彼女の中に、高校時代の彼女と、彼女のことが好きだった自分がいる。
あの頃の想いを完結させたい、そんな気持ちがあった。
されるがままに、俺の胸に顔を寄せ、月を見上げている美月の心中はどうなんだろう、と思う。
伸ばした手で、彼女の髪を触る。
「美月は変らないな。あの頃のままだ」
彼女は答えの代わりに、ふふふ、と笑った。
「…変ったよ。いろんなことを体験して、強くもなったし、狡くもなった」
しばらく考えてから、彼女はそう口にした。
「それは、大人になった、と言うことだろう? こんなに時間が経っていても、純粋だったあの頃の印象を裏切らない」
「そうかな?」
「俺はどう? 変った?」
そう聞くと、彼女は顔を上げて、俺を見た。
「ううん、変らない。いつも落ち着いて見えるけど、中身はとても熱くて。でもそれは特定の人にしか見せない。今も、そんな感じがする」
そう言って俺を見る目は、とても澄んでいた。なぜかそれが、俺の邪な気持ちを一掃させた。
本当に、純粋な高校生の時のように、彼女の額に唇を触れさせた。
目を開けて、彼女の目を確認する。
ためらっても、嫌がってもいないように見えた。
だから、きっと彼女も同じ気持ちでいてくれる、そう思った。
そっと、その身体を抱き寄せる。
胸元に寄ってきた小さな頭を手のひらで包み込み、ぎゅっと自分にくっつける。
彼女が本当に存在することを、確認するように。
しばらくして、そっと彼女が身動きした。
緩めた腕の中から、俺を見上げる。
「もう帰らないと、だよ」
「そうだな」
何となく、そうした方がいい気がした。この先を、どうすればいいのか分からない。考える時間が必要だった。
「毎月、同じ頃にここに来るとして、あと何回会える?」
「多分、2回?」
「分かった。頑張って、月の後半にもう一度来れるようにする」
そう言って、もう一度彼女の身体を抱きしめる。
「キスしていい?」
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