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Coffee break
次の土曜日、息子を連れて奈央と買い物に出かけた。
自分で歩きたがる息子の手を引いたり、時には抱っこしたり。
普段は奈央に子どもを任せきりなので、こういうときは自然に息子の担当になる。
子ども服の売り場を見たり、食材を買う奈央の後に着いて歩いているうちに、ぐずりだしたな、と思ったら、抱っこしているうちに寝てしまった。
「ちょっとコーヒーでも飲んでいかない?」
ずっと抱っこは辛いけど、彼女の息抜きも必要だ、と思った。
フードコートの小さい丸テーブルに陣取って、なるべく腕に負担が掛からないように、息子を膝に乗せ、胸に寄りかからせる。
自分のコーヒーと、俺のアイスコーヒーを買って、奈央が向かいの椅子に座った。
ストローを挿して、手渡してくれる。
奈央が眠っている息子を見て、「こういうとき泣かれると、落ちついて買い物もできないけど、光星がいてくれると慌てなくてすむわ」と言った。
今日の奈央は、濃い青地のカットソーにジーンズ、背中には、大きめのママリュック。
紙おむつとか、万一の時用の着替え、子ども用の紙パックジュースや小袋のおやつ、タオルも数種類、その他、単なる買い物でも、小さい子連れの外出は荷物が多くなる。
彼女は出産の前に髪を短くしていて、今もショートカットだ。
息子を風呂に入れる時間に、俺が帰れないときも多いので、一緒に入るなら短い方がラク、と言う。
「光星が、こんなに面倒を見てくれると思わなかった。これなら、もうひとりかふたり、産んでもいいな」
とっさに、「そうだな」と答えた。
子どもは、もうひとりくらいはほしい。息子にも兄弟を作ってやりたい。その気持ちは俺にもある。
子どもの相手も嫌いじゃない、とも思う。短い腕を精一杯伸ばして、俺を求めてくる彼の姿は、何ものにも代えがたい。
…でも、それには奈央を抱かなくてはいけない。
美月に再会していなければ、なんの抵抗もなくできただろう。でも今は、構えてしまう自分がいる。
「まあ、私が子どもと一緒に寝ちゃううちはムリか」
今、奈央はリビングの横の小さな和室で、息子と一緒に寝ている。
子どもを寝かしつけながら自分も寝てしまうので、9時半には寝てる。
だから俺は帰宅すると、自分のペースで夕食を食べ、風呂に入って、奥の寝室で寝ていた。
「男の子は可愛いけど、女の子もいいな。光星は親バカになりそうだけどね」
そんなことを言いながらコーヒーを飲む彼女に、なんと返していいのか分からなかった。
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