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彼女の家に着いたとき、外は雨が降っていた。
梅雨に入ってもあまり雨が降らなくて、外回りの仕事にはありがたかったのだけど。
玄関ドアの上についた、スズランのような形の灯りが、俺を迎えてくれた。
車の音に気づいたのか、美月が笑顔でドアを開けてくれる。
白いTシャツの上に、薄い黄色の柔らかそうなコットンのワンピース。
髪を一つにまとめて、左肩から下ろしている。
「はい、これ」
そう言って渡したのは、白い花束。
「通りすがりの花屋さんの店先にあったから、買ってきた」
先月、食事をしたレストランで、テーブルの上に置かれていた小さな花瓶に目を細めていた彼女を思い出したからだ。
「わ、ありがとう」
「隣に赤のも、黄色のもあったけど、なんかこれが美月に似合いそうだと思って」
薔薇とマーガレットくらいしか判別できないけど、いろいろな種類の、白い花だけで作ってあった。
花束と言っても、家使い用らしく、クルッと紙で巻いただけ、そんなに高いものじゃない。
「こんなことができる人になったんだね」
そう言って美月が笑うから
「さっと手に取って買える状況になってたから、買ったんだよ。わざわざ花屋に行けと言われたら、腰が引ける」
「そういう男性向けに作っているんだよ。それは」
「そうか。店の戦略にはまったんだな」
招き入れられた彼女の家は、大きなワンルームみたいなつくりだった。
「面白い家だね」
「そうなの。みんな見えちゃうでしょ?」
左の壁際には、さまざまな素材の紐や道具などが置かれた、作業台らしき机とパソコン。
向かいの壁側はキッチンスペースになっていて、小さな出窓の下にはシンクが。
ガスレンジの上には、数個のフライパンや鍋の蓋などが掛かっている。
「今、流行のミニマリスト?」
自分の家に比べると、本当に物が少ない。子どものいる暮らしは、常に物が溢れている。
「そんなことないよ。ひとり暮らしだから、こんな感じでもちゃんと生活できるの」
間に4人掛けの食卓テーブルがあって、もういくつか食器が置かれていた。
テーブルの上にも、出窓のところにも、小さなグリーンの鉢植えが置かれていて、花を買ってきたのは正解だったと思った。
何より目を引いたのは、その奥にある半円型の出窓のようなスペース。
長方形の家の、短い辺に半円を押し出したような形だ。
シングルベッドくらいの半円に合わせて作られたマットレスが置かれ、下は収納になっているらしい。
正面の縦に長いガラス窓に掛かっているカーテンが、左右にゆったりと分けられるように開いている。
もう外は暗いので見えないけど、雨の雫が窓に飛んでくるのが見える。
おしゃれな外観と同様に、内部も西洋風に造ってあるのだろう。
カーテンの下部は本棚のようになっていて、本やグリーンの鉢植えが並んでいる。
壁にはクッションがいくつか置かれていて、いつもそこで彼女がくつろいで座っているイメージが浮かんできた。
「素敵だね」
「そうでしょ? どうしても一度、住んでみたくなって」
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