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食べながら、他愛もない話をした。 仕事で扱っている機械のこと、営業になってすぐの頃の失敗談、ちょっとおかしなクライアントのこと。 彼女の作品作りが始まった理由や、作った物を知り合いにプレゼントしていたら「きっと売れるよ」と言われたこと、ネット用に上手に写真を撮る方法…。 でも、食べる方はじきに終わってしまう。 シンクに食器を運んで、洗い始めた彼女の後ろへそっと近寄ると、その肩の上に、軽く顎を乗せた。 「美味しかった。ありがとう」 美月の頭がそっと寄ってくる。 彼女がお皿を洗い終わるまで待って、タオルで手を拭いているその細い身体に、後ろから腕を回した。 「コーヒー入れようか?」 うん、と言ったけど、抱きしめたその腕を緩めなかったので、そのまま横に移動する彼女の身体についていく。 コーヒーの粉が入っていた棚の端に、病院の薬袋が差し込んであった。 彼女は手を伸ばさないと届かないけど、俺の目線からはその袋の印字名が見えた。 この町の公立病院の名前が印刷してある。担当科は内科。 そういえば、ちょっと病気したって言ってたな。 どんな病気だったのかは、聞いていなかった。 「…今夜、泊めてくれない?」 さすがに、正面から顔を見ながらは言えなかった。 フィルターをセットして、粉を入れようとしていた彼女の手が止まった。 「俺の中に、美月をもっと刻みつけたい」 固まる彼女の髪に、顔を埋める。 「そんなこと、いいのかな?」 前を向いたまま彼女は言った。 「いいも悪いもない。こうしてまた会えた以上、友達に戻れるはずもない」 少し間があった。 「…もしダメって言ったら?」 「車で寝る」 「嘘」 そんな俺を想像したのか、彼女はクスッと笑った。 「嘘じゃない」 前回、庭で話したときは、彼女が俺を家に入れなかったこともあって、ここまでだ、と思った。 あと何回か会って、話ができればいい、そう思っていた。 でも今日の昼過ぎ、夕飯を食べに家に来て、というメッセージを受け取った後、ビジネスホテルの予約をキャンセルした。 寒くも暑くもない季節だ。もし拒まれても、一晩くらい車中泊でも何とでもなる。 奈央とのことや、俺のことを拒まない美月の様子を思い返しているうちに、最後までいきたくなってしまった。 きっと彼女も、俺との思い出を作りたいんじゃないか、と、勝手に思い込むことにした。 この家に来る前に、ドラッグストアにも寄った。 「光星は、それで大丈夫なの?」 「何が?」 「だって…」 「じゃあ、美月は期待してなかった? ひとり暮らしの家に、俺を入れたのに」 そう言うと、もう言い返してこなかった。 「もっと悪いこと言おうか」
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