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ふと目を開けると、隣で横になって俺を見ている美月と目が合った。
ひとしきり動いた後、気が抜けたら、少し眠ってしまったらしい。
「寝なかったの?」
「少し眠ったよ」
そういうと、俺の頬に手を当てる。その手を取って唇をつける。
「今、何時?」
「12時回ったところ」
俺の背中側にあったらしい時計を見てそう言う。
「生理現象に起こされた。ちょっと下へ行ってくる」
そういって、下着を履いてトイレに行こうとすると、「これ着て」と、畳んだ服を手渡された。
広げてみると、青地に白い縁取りのある、ホテルにあるようなガウン。どう見てもメンズサイズだ。
まだ新しいように見えたので、深く考えないようにしてそれを着ると、上ってきた道を逆戻りして、1階のトイレへ行く。
トイレを出て、階段を上がっていく途中で、小さな灯りの点いたキッチンスペースに、美月がいることに気づいた。
俺の後から降りてきたらしい。
自分と同じような白のガウンから、細い足が覗いている。
それで階段に座って、彼女の様子を見守ることにした。
何かを口に入れ、水を飲んだ。薬を飲んでいるんだな、と気づいた。
コップに残った水を、出窓の小さなグリーンの鉢植えにやっている。
それらを片付けるとシンクの上の電気を消し、こっちを見て、階段の途中に俺が座っているのに気づいた。
「ここにいたの?」
階段を上がってくる彼女が愛おしくて、座ったまま手を伸ばすと、片膝の上に座らせて抱きしめ、キスをした。
「光星は、目がきれい」
俺の首に腕を巻きつけて、彼女がそう言った。
「そう? きれいとは?」
「何かね、ただ澄んでいる、というのとも違う。ものの本質を見極めよう、というのかな、そういう目だよね」
返事の代わりに額にキスをする。
「この前会ったとき、なんかそういうところが、より強くなってるな、と感じた。自分が気になることを、追求せずにはいられないタイプだよね」
「そうかも」
今だって、美月が目の前にいたら、思いを遂げずにはいられない。行き着くところまでいきたい、そう思っている。
「でもそれは、表には見せない。テニスの試合の前も、そういう目をしてたなって。相手が強ければ強いほど、心の中で静かに闘志を燃やしてたよね。絶対勝つって」
「その割に、技術力がなくて、あまり勝てなかったけどな」
そう言うと、美月は笑った。
テニスを始めたのが高校に入ってからだったので、たいした実績は残せなかった。
「身体も大きくて、それほど口数も多くない、実力勝負のスポーツマンタイプなのに、その目の動きだけがとても繊細で。光星の本当の心を写しているんじゃないか、と思うよ。
だから、そんな目で甘く見つめられたら、もう逃げられない」
つい、ふっと笑ってしまった。
「逃がさないよ」
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