512人が本棚に入れています
本棚に追加
moonset
月末最終週になり、翌週はいつものように彼女の町に行くことにしていた。
土曜日のアポが取れれば、また泊りの出張にできる。そう思って、何ヵ所か電話を入れたけど、なかなか決まらない。
車の中でパソコン上のマップを見ながら、先日開拓したばかりの病院に電話をかけていた時、スマホが振動した。
電話を切ったあと、美月からと気づいて、アプリを開ける。
『ごめんね。
急に明日、出国することになりました。
あの家は、もう手放しました。
だからもう来ないでね。
大切な思い出をくれて、ありがとう。
光星、大好きだよ』
たったそれだけの文字、その下には彼女がそのアプリから抜けたというメッセージ。
しばらく呆然として画面を見つめていた。
いつかこうなることは、覚悟しておかないといけなかったのに、まだ時間はあると思って油断していた。
急に訪れた別れに、気持ちがついてこない。
明日は予定があって、別れを惜しみに行くこともできない。
外回りの予定は終わっていたけど、そのまま帰る気にもならなかった。
その後、どうやって車を運転してきたのか、どこで時間を潰したのか覚えていない。気がつくと、マンションの駐車場に止まっていた。
車の窓から、満月に近い黄色い月が見えた。
あ、月が出てる、と思ったあと、これからも月を見るたびに、美月を思い出すんだろうか、と思ってしまった。
そうやってずっと、美月を心の中で追いかけていくことになるんだろうか。
それはとても辛くて、でも、とても嬉しいことだった。いつまでも美月を忘れずにいられる、から。
最初のコメントを投稿しよう!