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仕事用バッグのポケットから、黒いコードのブレスレットを取り出す。
最後に会えたとき、そっと彼女の作業机から持ち出した物だ。
そのことを彼女は気づいたと思うけど、その後、何も言われなかった。
細く編んだ黒い紐の真ん中に、細長いシルバーのプレートが通されている。
少しアーチになっているそのプレートを、ふと裏返してみて気づいた。
細い線で、小さな星と三日月のかたちの刻印が打ってあった。
…もしかしたらこれは、俺のために作ってくれたのか。
そう言えば、あの箱の中で、メンズらしいテイストだったのはこれ1本だけだった。
あの時は「あげられない」と言ったけど、もしかしたらその後、何かの機会にくれるつもりだったのかもしれない。その勝手な推測が合っているかどうかは、もう確かめることができない。
一度も手を通したことがなかったそれを、初めて自分の左手首につける。
そのままハンドルを握って、彼女のいなくなった洋館を後にした。
…どんな姿でもいい、生きていて。
俺たちは星と月だから。太陽と違って、同じ夜空にいられるから。
彼女は今も、心の中で俺に微笑みかけている。
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