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「私も、会いたかったよ。光星に。ずっと」
彼女は自分の足元に視線を落としたまま、言葉を紡いでいく。
「会えないってことは、そういう縁で繋がれる相手じゃなかったんだな、と思うしかなかった。それなのに、こんなに時間が経ってから会えるなんて、ね」
言葉が途切れたとき、俺はその手をそっと引いた。
彼女の身体が胸の中に倒れ込んでくる。
腕を精一杯伸ばして、彼女の身体を抱きしめる。
「ごめん、嫌だったらよけて」
そう言ってみたけど、彼女はされるがままにしている。
「来月も同じ頃にこっちに来る。また会ってくれる?」
耳元でそう言うと、コクンと頭が揺れた。
「でも、その先のことは考えないで。私のためにいつもと違うことをしないで。それと、光星のお家の人には知られたくない」
「分かった」
そう言って、おとなしく俺の腕の中に入っている、彼女の後ろ髪を撫でた。
学生の頃の延長のようで、でももっと大人になった彼女が、俺のことを特別な人という扱いにしてくれたことが嬉しかった。
思い切って、そっと彼女の額に、軽く触れるだけのキスをした。
驚いて目を丸くする彼女に、「連絡先を教えてくれる?」と言ってみる。
「いいけど、他の人に見られたりしない?」
「会社支給のスマホがある。仕事が終わると電源を切っちゃうから、昼間しか確認できないけど」
そう言って、ポケットから社用スマホを出すと、アプリのひとつを開いた。
「これのアカウントはある?」
彼女は頷いてスマホを出すと、自分のプロフィールを出してくれた。
「ありがと」
「念のため、どこかの会社名か何かに変えて」
その場で思いついた名称に変えて、彼女に見せる。
了解、と頷いて、
「じゃあ、またね。送ってくれて、ありがとう」
そういう彼女の手を取り、俺の感触を残すようにギュっと握った。
ふと頭の中に浮かんだ想いを隠しながら、車を降りていく彼女を見守った。
緑に塗られた木の玄関扉の前で、手を振る彼女に応えてから、車を動かした。
ミラーの中に小さくなる彼女を見ながら、再会の喜びに浸った。
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