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帰り道、車を運転しながら、偶然の再会に思いを巡らせた。
高校生の頃、美月は髪を伸ばしていて、いつも首の後ろで束ねていた。
俺は自転車を引きながら、ふたり並んで歩いていて、彼女が俺の方を向いたりすると、その束ねた髪が遠心力で揺れていたのを思い出す。
喫茶店で向かい合った彼女は、髪型こそ大人っぽくなったけど、あの三日月型の優しそうな目も、形の良い唇も、細い手も、何も変っていなかった。
「光星」と俺を呼ぶ声も。
本当に、何でもっと早く会えなかったんだろうな、と思う。
一生を共にできる相手でないから、今まで会えなかったのか、とか、それって、何をどうやって決められてくるんだ?とか、いろいろなことが浮かんでくる。
彼女の家を出た時、頭をよぎったこと。
高3の3月、進路が決まって、お互いの引っ越しの直前、平日で親がいない日に、初めて彼女を家に連れてきた。
引っ越し前の整理も兼ねて、かなりの物を片付けて、きれいに掃除もして、それなりに女子を呼んでも大丈夫な部屋にしてあった。
他に何を話したのか、全く思い出せないけど、その時初めて、自分のベッドで彼女を抱いた。
「最後の思い出がほしい」
そう言った気がする。
「光星ならいいよ」
そう言われてトライしたものの、俺も彼女も初めてで、およそロマンチックなものではなかった。
でも、とにかく彼女とひとつになりたかった。
初めてキスしたのは、もっと前、お互いの進路が決まったとき。
無事、進学が決まってホッとしたせいか、お互いに気持ちが盛り上がっていて、夕暮れ時のいつもの分かれ道のところで、周りに人がいないのを良いことにそっと唇を合わせた。
だからキスはそれから何度かしていて、少しは上手になっていたけど、その先は想像でしかなかった。
ゴムをつける時だけでなく、いろんなところでもたついて、その行為自体を、無事に終わらせることしか考えられなかった。
彼女もガチガチだったし、俺ももちろん最後までは到達できなかった。
彼女の身体が白くて柔らかかったことと、お互いの体温を肌で感じる、という体験が新鮮だったことしか覚えていない。
…もし、もう一度、彼女を抱くことができたら
今度は大人の男として、彼女をスマートにリードできるだろうし、自分も彼女も満足することができるだろう。
そんな機会があるだろうか。
もちろん、不純な考えだとは分かっていた。
彼女が日本にいる間だけでも会いたい。
今まで、彼女と離れていた時間を埋めてしまいたい。
だから、会えたとしたら、プラトニックな関係を維持できるとは思えなかった。
身体を重ねることで、得られる愛があることを知っている今だから。
限られた期間だけだったら、許されるんじゃないか?
それが、自分に都合の良い考え方だとは思っても、どうしてもその思いを無視することができなかった。
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