第一話 ベッドの下に

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第一話 ベッドの下に

 ノアは新しい家を見た瞬間、ため息をつきそうになった。森の奥深くに建っているそれは家というより小屋に近く、強風が起きようものならすぐさま飛んでいってしまいそうな作りだった。 「大丈夫そうかね?もう少し家賃が上がる物件なら、もっと良い部屋があるんだが…」 「…いえ、大丈夫です」 「備え付けの家具は好きに使っていいから」 大家はそう言うとノアに鍵を渡し、「困ったときはいつでも頼って」と電話番号の書かれたメモを渡した。 「じゃあ私は戻るが…。いいかい、何があってもくじけちゃいかんよ」 「ええ、ありがとうございます」  ノアは貰った鍵で家に入り、そのまま玄関に突っ立っていた。しばらくするとドアのノックが鳴った。 「なんだ、リックか」 「よう、ノア元気か?…っと元気な訳ないよな、わるい」 申し訳なさそうに頭をかくリックに対し、ノアはふっと笑った。 「今更おまえにそんな気遣い期待してないさ。それで、何か用か?」 「いやあ、引っ越し作業手伝ってやろうと思ってさ。…あれ、荷物はそれだけなのか?」 「ああ」 「なんだ、これなら一瞬で終わるな。ノアは座って休んでろよ。俺に任せとけ」 リックはすぐさま玄関にあった大きな箱を開けて中身を出し始めた。 中からは数枚の衣類と、写真が出てきた。 「父さんと母さんの写真、それが一番気に入ってるんだ」 ノアの言葉にリックは少し驚いた。 「……おまえ、恨んでないのか?」 「そりゃあ、ね。でも今は自分の生活で一杯一杯だし、僕もよくわからない」 リックは大きなため息をついた。 「まったく、親父さんもひどいよな…。自分の子供置いて夜逃げするなんてさ。おまえ本当に、頼れる親戚もいないのかよ?」 「母さんは数年前に家を出たきりだし、父さんと親戚一同は僕が生まれる前から絶縁状態。誰も僕を…いや、僕の存在すら知らないかもね」 そういって自虐的に笑うノアをリックは軽く小突いた。 「よし、あとは何すればいいんだ?俺引っ越ししたことないからよくわからないんだよ」 「そうだな…。正直どこから手をつけたらいいか…僕もわからなくて困ってる」 部屋を見渡すと、一面ガラクタや埃が散乱していた。 「うわあ、こりゃひどいな。いくら破格といえど、大家も少しぐらい片づけとけよな」 「まあ未成年に貸してくれるだけありがたいよ」 「いったん寝る場所だけでも確保しないと。おい、ノア、まずはあのど真ん中にいるベッドを窓際に移動しようぜ」 「そうだな」 ノアとリックはベッド回りのガラクタを蹴飛ばした。 「じゃあいくぜ。せーの!」 二人は力いっぱいベッドを窓際に押した。 するとベッドの影から古びた四角い箱が現れた。 「ん?何か出てきたぞ」 一歩後ろへ下がるリック。 「お、おいノアそれなんだ、なんかやばそうだぞ」 「なんだ、おまえビビってるのか?」 「い、いやビビってねえよ。だがとりあえず開けた方がいいな。おまえがな」 「なんだよ、やっぱりビビってるんじゃないか」 「ビビってねえって。おまえんちの物なんだからおまえが開けるべきだ。もし人骨だったらおまえが埋葬しろよ」 ノアはふっと笑うと埃をはたいて躊躇なく箱を開けた。 「本だ」 「なんだよ、ただの本か。驚かせやがって。ずいぶん古そうな本だな。売ったら意外と高く売れたりして」 「そうだな…今度骨董屋にでも持って行ってみるか」 ノアはサイドテーブルに本をそっと置いた。 リックが帰ったあと、ノアはベッドにドサッと倒れ込んだ。 「疲れた…」 頭の中ではこれからの面倒なことが浮かぶ。 学校はいつから復学しよう。 学校…学費、払わなきゃな。 バイトをするか。バイトなら何がいいだろう。 そもそも生活費ってどれくらいかかるのかな。 「…今考えてもしょうがないか」 ノアはベッドから手を伸ばし、サイドテーブルの上にある本を手に取った。 「どれどれ、どんなすごい本なんだおまえは」 本を無造作に開いた瞬間だった。突然目の前が光に包まれ、ノアはとっさに目をつむった。 (なんだ…!?!) 次の瞬間、渦を巻くようにノアは本の中に吸い込まれていった。
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