夜中の3時に目が覚める。朝の3時に目を覚ます。

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 「今日は、ホテルの扉を開けたら、トンネルにいたのよ」  くっさい煙草の煙を吐き出して、私はさっきまで見てた夢の話をし出した。  ホテルの一室に、私はいる。小学生まで年齢は遡っている。  周りには親戚の子供達。  大人はいない。  みんな、食べ物を買いに行ったまま、一向に帰って来ない。 『探しに行こう』  一歳年上の従兄の言葉で、私たちはみんなで部屋の外へ出ることを決心する。  扉の先は真っ暗で、何も見えないけれど、そこがトンネルの中であることは分かった。  照明のない大きなトンネル。  気付けば周りには誰もいない。  私は一人ぼっちで、延々と真っ暗なトンネルを歩き続ける。  それがずっと続く夢。 ”他人の夢の話ほど、つまらない話はない”  母さんが言っていた。  だから、私はあまり夢の話はしなてこなかった。  でも、確実に、私は自分の脳みそが生み出した幻影に悩まされている。  こうして朝早くに目覚めてしまうほどに。 「それは、嫌な夢ですね」  ただの隣人の男の子に、なんてつまらない話をしてしまっているんだろうと言う、罪悪感はある。  でも、何だか癖になってしまったみたいだ。  彼は、私のことが好きだ。  私のことを、頭のおかしい人間だと思っているみたいだけれど、それと同時に、精神的に不安定な私に好意を抱いた彼自身をも、まともではないと思っているのだろう。  自分より弱い人間に、人は何らかのアクションを起こしたがるものなのだろう。  気晴らしのための攻撃。同情による干渉。  いずれにしても、良い効果は生まれない。  事実、私の部屋の隣人は干渉しすぎるあまり、私に対して不毛な恋心を抱いてしまった。  私は、誰かに可哀想だと思われたいだけだった。  職場の人では駄目だ。  仕事に支障が出てしまう。  名前も知らない、恋愛対象にもなり得ない、アパートの隣人が丁度良かった。  自分の経験、生い立ちについて、嘘を吐いているわけではない。  全て本当のことだ。  私は、自分の過去を人一倍不幸だと思っているのだ。  ただ、もうどうでもいいとも思っている。  どうにでもなれと思っている。  何がしたいのか分からないから、何もしたくないという思考に陥っている。  一切目を合わせずに、会話を続ける私たち。  ごめんね。  君は話を聞いてくれるから大好きだけど、こんな私とこれ以上近い関係になっても、君の人生を台無しにしてしまうだけだから。 「明日、大学早いの?」  ごめんね。  私の横顔を、君が見つめているのは知っている。  だから少し意地悪をして、意図的に視線を向けないようにしているの。 「いや……明日は授業ないんです。午後からバイトがあるだけ」  本当にごめんね。  君の気持ちに応えるつもりなんてないけど、君のその感情に甘えて、利用して、私はこのもどかしい時間を楽しんでいるの。 「そっか……。それは本当にごめーーー」 「だから、こんな時間まで夜更かししちゃったんですよ」  可愛い嘘を吐いてくれる心優しい隣人。  こんな早朝に起こしてしまって、本当に申し訳ないと思っている。  それは本心。  でも、もうしばらく続けさせてほしい。  私は不味い煙草の煙を吐き出して、不完全な満月から目を逸らし、ゆっくりとまばたきをしながら、隣の部屋のベランダに視線を向けた。  私の動きに瞬時に気が付いた隣人も、驚いたようにこちらを見る。 「今日も、付き合ってくれてありがとう」  私はそう言って、得意の笑顔を浮かべた。  彼は、私の”ありがとう”という言葉を待っている。  そんなこと、もう既に知っている。  本当に、性格の悪い女だと、つくづく思う。  こうすれば、彼がもうしばらく私に囚われてしまうことも、知っているくせに……。  こんな性格では、人から恨まれてしまっても仕方がない。  ああ。どうかこのまま私を一切眠らせないで。  睡眠不足で苦しめて。  向き合おうとしない私を罰して。 「明日も、頑張ってくださいね」  躊躇いがちに吐き出されたその言葉を、私は煙を吹き付けてはじき返した。 「ありがとう」  デフォルトの笑顔を浮かべて、私はまた月を見上げるのだった。
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