ひかる

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 この公園は、ジャングルジムとブランコ、砂場、それだけで場所が埋まってしまうような小さな公園だ。ジャングルジムから移動して、砂場を通り過ぎ、二つしかないブランコに腰掛ける。お兄ちゃんは、出入り口の側にある自動販売機で飲み物を買っている。  昔は、ブランコを大きく漕いで遊んでいた。ふりこのように大きく揺れるブランコが大好きだった。空に近づいた分だけ、自由になれる気がしていた。男の子達の真似をして立ち漕ぎをして、そのまま柵を飛び越えて着地する。そんな挑戦をしたこともあった。今じゃそんなこと怖くてできやしない。  お兄ちゃんが私の元へ戻ってきた。手渡された缶は、レモンスカッシュだった。学生の頃、お兄ちゃんが好んでよく飲んでいたものだ。「ひかる、またそれ飲むの?」と笑う友達の声が聞こえた気がした。お兄ちゃんが隣のブランコに腰を下ろした。足元にはボストンバッグが置いてあった。 「……帰るの?」 「ああ。夜のうちに出ようかと思って」  自分の部屋に篭ったのは何時間も前だ。何をするでもなく、ただベッドに横になっていたのに睡魔は一切訪れなかった。もう二度と眠れないんじゃないか。そんな不安に苛まれながら、気休めに、窓の外を眺めればお兄ちゃんが玄関から出て行くのが目に入った。ざわりと胸騒ぎがした。嫌な予感は多分、間違ってない。私は、パジャマ替わりのTシャツ、ショートパンツに薄手のロングカーディガンを羽織ると、自室を飛び出したのだった。 「……さっきは、ごめんな」  私は無言で、首を横に振った。お兄ちゃんから貰ったレモンスカッシュの缶を両手で握り締める。お兄ちゃんが口にしているのはブラックコーヒーだ。コーヒーを飲むことも、煙草を吸うことも知らなかった。久しぶりに故郷に帰ってきたお兄ちゃんは、私の知らない大人になっていた。 「……男の人が、好きなの?」  学生の頃は、彼女がいたはずなのに。大事にされているだろう彼女が羨ましくて妬ましくて仕方がなかったのに。 「……うん」  頷いたお兄ちゃんは、悲しそうな顔をしていた。
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