九度目の冬

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 数日後に僕が帰宅すると、暖房で温かいはずの家の中になぜだか冬の風を感じた。 「え、寒っ」 「あ、お帰りなさい」  出迎えてくれた翠はなぜだか高校のジャージを着て、綺麗な顔に不似合な焦げ茶色なんてつけていた。高校生の頃、同じ格好でクールビューティーなんて言われていた翠との落差に笑いが堪えきれなくなる。 「わ、着替えるの忘れてた! 恥ずかしい!」 「いいよ、面白いもん見れて仕事疲れも吹っ飛んだわ」 「別に、面白がらせたくて着てたわけじゃ」 「じゃあ何でそんなの着たんだよ」  翠に手招きされて中に入れば、ベランダへと続く掃き出し窓が開けっぱなしになっていて、そのすぐ下には見慣れぬ鉢植えが置かれていた。その中には、何かの植物が芽吹いている。 「ポット苗を鉢に植え替えてたの。汚れていい服、これしか思い浮かばなくて」  窓辺にしゃがみ、再び恥ずかしそうに頬を掻きながら翠が言った。だから、そうやって顔を触ると汚れるんだよ。そう思いつつも珍しく間抜けな翠が可愛くて、何も言わずに翠と体をくっつけるようにしてしゃがみ込んだ。 「何で突然」 「テストしたいの」 「何を?」 「私が母親になってもいいかどうか」  答えの予測として全く頭になかった返答に、思考が停止した。言葉を紡げずただ翠を見つめると、翠は困ったように肩を竦め、両手で頬を包み込んだ。 「私、昔から生き物を上手く育てられないの。花はすぐ枯らすし、お祭りで買った金魚もなぜか死んじゃった。大切にしてなかったんじゃない。でも、私が世話をすると命が枯れるの」
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