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①出会い
「コラ!祐政、早く起きなさい!」
女性の声がドア越しに聞こえ、ベッドに寝ていた俺は目を覚ます。
1年近く家に引きこもり、ゲームばかりしていたからか、前よりも重い体を何とかして起こし、まだうとうとする瞼をこすりながら、ドアを開け、薄暗い部屋から出る。
すると、食器に盛った目玉焼きやサラダ、味噌汁、白米が乗ったお盆を持ちながら仁王立ちで立っているスーツを着た、寝ぐせのない黒い髪の毛をポニーテールの女性がいた。俺の姉である。
「もう、朝の7時になったのに全く起きないんだから、私が朝ごはんを持っていくことになったんじゃないの。朝は忙しいのに。だいたい、祐政は、あの事件を起こしてから仕事がごっそりキャンセルになり、CMの違約金も支払わなくてはいけなくなって、その人たちに謝罪の行脚にいくなど散々迷惑かけた上に、マスコミから逃げるように私の家に転がり込んで、ゲーム三昧なんて、さらに迷惑がかかっているじゃない。まあ、マスコミの張り込みとか誹謗中傷が嫌だからというのは分かっているけどさ…。あとさ、あんたは、今は芸能人ではなくただのニート同然になったから、私がいない間に料理とか掃除などの家事をしたらどう?」
姉は、般若のお面のような顔をしながらお盆を俺に差出し、早口で捲し立てた。
俺は、彼女が持っていたご飯が乗ったそれをブルブルと震えながらもらう。ここで反応すると、またさっきと同じになるので、少し棒読み気味に「はーい。」と言いながら。
スーツと黒髪ポニーの女性は少し、イライラしながら自分の腕見る。すると、早足で玄関に向かった。
「あ、いけない。もう7時50分じゃん。じゃあ、食器洗い、お願いね。絶対よ!」
そう怒り口調で俺に伝え、玄関の戸を開け、外に出た。
俺は、自分の部屋の机にお盆を置き、ドアを閉める。
しかし、もう朝だったのか。分からなかったな。
おそらく、部屋は、緑色のカーテンが閉じているからか、わずかに漏れる程度の光しかないからだろう。加えて、1年近くもここにいるからだろう。
冷えた目玉焼きを口に入れながらこう思った。
ぬるい味噌汁が口いっぱいに広がると、ふと“あの事”が頭をよぎった。
“あの事”が起きてから、俺の運命は変わった。悪い意味で。
俺の周りは手のひらを反すように俺を攻撃し、ワイドショーで根拠のない憶測をたてられ、SNSは誹謗中傷ばかりになった。
それで俺は、恐ろしい違約金を課せられ、菓子折りで謝罪した。そして、俺は、プライベートをマスコミに付け回され、そこから逃げるように姉の家に転がり込んだのだ。
そして、今に至っているのである。
こんなことしなければよかった。カピカピになりかけている白米をゆっくり口に噛みながら後悔する。
生ぬるいサラダと冷めた目玉焼きを乾いた白米に乗せ、飲んでいた味噌汁に入れ、ガガガっと口の中にかきこむ。
まずい味が口にいっぱいに広がりながら、久々に部屋の外に出て、台所で食器を適当に洗ったあと、冷蔵庫をガンっと開け、コップに麦茶を並々つぎ、一気飲みした。
麦茶を飲んだ後、コンっとコップを置き、うつむく。
もう、俺の居場所はここにない。だから、ここで死のうかな…。
俺は、包丁を見つけ、持つ。
包丁の刃先は雫がポタン…ポタン…と落ちていた。
俺は、寂しそうにそれを眺める。
濡れた刃先を首に突きつけようとしたその時だ。
プルルルル
LINE電話の着信音が鳴る。
それを聞き、俺は止まる。しかし、これが止まるとすぐにまた俺は包丁を首に近づけた。しかしだ。
プルルルルルルルルルルルル
また、この着信音が鳴る。
俺は、包丁を洗い場に置き、しばらく触っていないスマホが置いてあるリビングに向かった。
スマホの画面は、主演映画で一緒になってからすごく仲が良いスタッフさんである直哉からの電話だと伝えている。
俺は、それに出た。
「もしもし。何、直哉。」
「ああ、もしもし。お久しぶり。祐政。」直哉は相変わらず明るい声だ。その変わらなさに、俺は少し泣きそうになった。
「ああ、実は、お前にどうしても会いたがっている人がいてな。今から、その人に変わるよ。」
え、世間から嫌われている俺に会いたい人?この言葉に重かった目を丸くし、口をポカーンと開く。
「もしもし、西澤祐政さん、初めまして。」
一瞬、静かになった空間の中に、聞いている人も落ち着かせるようなあたたかい男性の声が響く。
「こんにちは。月村一也です。いきなり、すみません。僕と、一緒にラジオをやりませんか?」
え!?思わず、久しぶりに大きな声で驚いた。あの、俳優も歌手も行い、しかもいずれも大成功を修めているあのみんなに好かれている月村一也さんが!?なんで世間から嫌われている俺に!?
俺は、あわあわしながら声を震わせ答える。
「いや…俺と組んでも、月村さんになんのメリットがないですけど…。」
しかし、彼は、その落ち着いた声にギターの弦のようにピシッと張ったに発する。
「いいえ、どうしてもあなたとラジオがしたいです!」
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