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④事務所にて
祐政は、久々のスーツと顔を覆う布を身にまとい、貯金を切り崩して買った菓子折りを持ち、大きなビルの入り口に立つ。
(久しぶりだから、追い返されないかな…。でも、昨日、夕食の前に事務所に連絡し、社員に来社を許可を得たので、大丈夫だろう。)
足をゆっくりゆっくりと踏み出し、自動ドアの前に立つ。
ウィン
自動ドアが開いても、彼はそろりそろりと進む。
エスカレーターの前に立ち、ボタンをおそるおそる押すと、
ピンポン【一階です。】
エレベーターのドアが開く。
エレベーターの中にはスーツに黒縁の眼鏡、スッと高い鼻に切れ長の目、おでこを隠したショートカットの髪型の男性がいた。
祐政は怯み、お辞儀をする。「お、お久しぶりです。内田マネージャー。」
内田マネージャーは、にこりと口角を上げ、左手を平行にし、どうぞというジェスチャーをする。
「こちらこそ、お久しぶりです。西澤さん。さあ、早くエレベーターに乗ってください。」
祐政は申し訳なさそうに軽くお辞儀をすると、エレベーターの中に入った。
密室の中、ブーンと上がる音だけがした。
すると、内田は祐政に向かって、口を開く。
「話は月村さんから聞きましたよ。でも、あの騒ぎなら、多分無理でしょうね。」
このトーンが低い声が中で響き、祐政は肩をしゅんと落とした。
【ピンポーン、10階です。】
エレベーターのドアが開いた。
二人の前に身長180cm以上の白髪がところどころ見え、眉毛が目をかっと見開いたスーツを着た男性がいた。彼は、眉毛を吊り上げながら、腕を組んで、仁王立ちしていた。
「久しぶりだね。西澤くん、さあ、こっちに来て、座りたまえ。」
二人はこの男に深々とお辞儀をした後、社長室と書かれた部屋に入り、椅子に座った。
祐政と内田マネージャーは、向かいにいる白髪の男性の方を向き、真剣な顔になった。祐政は菓子折りをこの男に差し出す。
「社長、この度は改めて、申し訳ございませんでした。」
どうやら白髪の大男は祐政の事務所の社長のようだ。社長は、ごほんと咳払いをし、眉をさらに吊り上げて、祐政を睨んだ。
「月村さんの方の事務所から、ラジオの件は聞いたぞ。全く、あの騒動といい、みんなに迷惑かけやがって。本当なら、このラジオも丁寧にお断りしようと思ったけど、月村さんがどうしてもという熱意がすごいこと、これのほとぼりが少し冷めたこと、そして、社会的にお前は殺されており、誹謗中傷に耐えたことから今回だけ特別に、お前がやりたければ許可する。」
え…。社長のこの言葉を聞き、思わず、キョトンとした顔で固まった。
(自分が迷惑かけたのは事実だし、普段の社長は礼儀を重んじるかつ芸能人を商品として扱う部分が強いからだめだというかと思った。だから、本当にラジオを許可してくれるとは…。)
「おい、西澤、聞いているのか!おい!」
社長は、彼を見つめ、強く伝える。
「西澤さん、社長がいいと言っているんですよ!」
内田マネージャーも揺さぶりながら、伝えた。
その言葉に祐政はハッとした。そして、内田マネージャーの顔を数秒見つめ、そして、社長のことをじーっと見つめ、口を開いた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
その、はっきり凛とした言葉が社長室に響いた後、社長は口角をきゅっと上げ、眉の角度を下げた。
「うん、今回だけだぞ。月村さんと彼の事務所に感謝するんだぞ。」
エレベーターで一番下に降りた後、祐政は直哉と一也にLINEで【許可を得ることができました!】と書いた。
すると、二人から、【おめでとう!】というメッセージやお祝いのスタンプが送られた。
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