⑥スタート前夜

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⑥スタート前夜

 タイトルが決定した次の日のお昼、一也は、祐政や直哉に来週土曜日は予定が空いているかを尋ねた。  それに対し、2人はその日は空いているということを報告した。  その日の夜、一也は、来週の土曜日にラジオの初回放送があること及び一也の所属事務所の一室でラジオを行うということを2人に伝えた。  そこから、祐政は生活リズムを正すべく、夜は早く寝て朝は早く起き、朝ごはん及び家事を行い、一也は曲作りや撮影、雑誌のインタビューをこなしつつ番組の構成や事務所の空き部屋の確認および予約取り、直哉は機材の確認や足りない機材の購入を行った。    翌週の金曜日の夜、明日が心配で眠れなくなった祐政は、一也にLINE電話をした。  「もしもし、月村さん。仕事中だったらごめんなさい。相談にのってくれますか?」  「もしもし、西澤さん、どうしたんですか。僕なら、仕事が今、休憩の時間なので大丈夫です。」  仕事中なのにも関わらず、疲れたという素振りが一切ない声がスマホから聞こえる。そこから推測できる彼の仕事のプロっぷりに少し驚きながら、祐政は悩みを声に出した。  「実は、月村さんとラジオができるか本当に不安なんです。月村さんは仕事ができて、スキャンダルがあまり見当たらない。対して、俺は、『棒読み俳優』や『演技が下手』という悪評ばかりかつ、芸能人として取返しのつかないスキャンダルをしてしまった。だから、俺と月村さんは釣り合わないと思うのです。さらに、月村さんのファンに僕とラジオをしたことで『月村さん、見損ないました』など、ファンが離れると思いますし、メディアも彼を叩くかもしれませんよ。」  これを伝えた後、部屋が静まった。部屋の光がぼんやりとしている。  その10分後、スマホからスッと息をはくのが聞こえた。  「人の評価を気にするのはあまりしない方がいいですよ。僕、何回か人の評価を気にして曲を作ってましたが自分がやりたかったことができなかったと後悔したり、自分じゃないと落ち込んだりしていましたし。それと、前、言いましたが、ファンが1人でも大丈夫です。1000万人のアンチを憎むよりも1人のファンを大切にした方がムダなエネルギーを使わないので。」  静かだけど、力強く、はっきりとした声が祐政の耳に入る。祐政は無言のまま、コクっと首を縦に2回振った。  「あと、厳しいことを言いますが、あの事件のことからか分からないのですが、もう後ろ向きの発言、やめたらどうですか?このままだと、いつまでたっても前に進めませんよ。それと、2人でラジオができるかどうかの悩み、何回聞いているんですか?しつこいですよ。」  いつも聞いている一也の声が少し荒く、きつい。  その静かな怒りを察した祐政は、「ごめんなさい。」と静かに息をはくように言う。まるで一也が前にいるように、頭を下げながら。  「はい。分かりました。こっちもきつく言ってしまったことはすみません。明日は、楽しくラジオをしましょうね。それでは、また明日。」  祐政も「じゃあ、失礼しました。」と挨拶をすると、電話が切れた。  静かな部屋の中、祐政は部屋を暗くし、ベッドに入ると、(大丈夫、大丈夫。前向きになれる。アンチよりも待っているファンのことを思おう。)と念じ、瞼を閉じた。   
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