⑦本番の日に

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⑦本番の日に

 ラジオを行う土曜日になった。  朝、祐政は、早く起き上がり、姉と自分の分の朝ごはんの準備を終えると、スマホを開き、一昨日に届いた一也のLINEを確認した。  これによると18時に彼の所属事務所に集まり、打ち合わせや設置、そして生放送の予定だそうだ。  それを彼は忘れないように、何度も何度も確認する。  それを読むたびに、一也の“あの一言”が頭によぎる。  昨日のこの言葉が祐政の心をぎゅっと締め付ける。  それは、連絡を読み終え、朝ごはんを食べても、身支度を整えても、掃除をしても、部屋でゲームをしてもこれは消えなかった。それどころが、強く強く頭に響いていく。  しかし、このようなことが、時間が進んでいくうちに、彼は、強くこのように願うようになっていった。  (変わりたい、変わらなきゃ。)と。  すぐさま祐政は、服を脱ぎ、ベッドの上に置いた後、部屋の奥にしまっていたバリカンを持ち、新聞を三畳ほどに広げ。その上に座ると、鏡を前に置き、銀色の物に電源を入れ、頭につけるとガーっと後全体にまんべんなく動かした。  頭の表面全体にバリカンを動かした後、彼は、鏡を確認する。鏡の中の丸刈りの男は清々しく、キリっとした表情だった。  ゴミ箱に自分の髪と負の部分を捨て、服を着た後、浴槽でシャワーを浴び、服に着替える。  その後、歯を磨き、サングラスをかけ、帽子を被り、バックを持ち、外に出た。  駅に向かい、改札を通り、電車に乗る。前をまっすぐ向きながら。  電車から降り、改札を通ると、スマホを見るために立ち止まりつつ、目的地に向かって歩いて行った。  祐政が高いコンクリートとガラスの森の中にいる間、ひそひそ声や笑い声が彼の耳に入ってきた。しかし、それに反応することなくまっすぐ、しっかりと進んでいく。今までの自分とわかれるために。  その音と高い建物の中に進んでいくと、ある高層ビルの前になる。祐政はピタッと立ち止まり、スマホを確認した後、コクリと頷く。一也の事務所が入っているビルだ。  17時30分とすこし時間は早いが、彼はそのビルの中に入り、エレベーターのボタンを押し、エレベーターのドアが開くと、7階のボタンを押す。エレベーターは1人の男を乗せた後、上に昇った。  エレベーターから降りると、祐政はとある1部屋のドアをノックする。  ドアの中で「いいよ。」という声がすると、彼は扉を開ける。機材のセットをしているスポーツ刈りの男とそれの手伝いを行っている塩顔の男がいた。直哉と一也である。  2人は祐政を見ると、目を見開いて、口を開けた。そして、一斉に彼に向かって叫んだ。  「ど、どうしたー!祐政!」「ど、どうしたー!西澤さん!」  それを見て、祐政はきょとんとする。  「い、いや。気合をいれるために…。」口から出まかせの理由を言うと、2人はおーと感心する。  「すごいやん!祐政!気合、入れてる!」「入れすぎですよ。西澤さん。」  祐政は2人を眺めながらえへへと頭を掻きながら照れ、頭を少し下げた。  その後、祐政もカメラやミキサー機材のセットの手伝いを行い、打ち合わせで、タイトルコールを必ずし、その後、一也のラジオの説明があること、1回目はプライベートの話などフリートークが中心であること、メールは随時募集すること、番組の最後はラジオやお互いに関する告知をすることなどのラジオの内容を理解していった。  これらから、2人のラジオに対する思いやこのような居場所を作るための努力を読み取り、目頭が熱くなっていった。  祐政と一也は自分の席にすわる。祐政は向かいにいる一也の顔を見る。彼はそれに気づき、親指を上げ、ニコリと笑う。  次に彼は、直哉は口を開き、手で10を表したあと、「10,9,8…。」と言いながら、指を1本1本折り、数えていた。また、カウントダウンが5になると、マイクに音を拾わせるためにミキサーをぐりぐりといじっている。  いよいよ、2人のラジオが始まる。  
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