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1 〈オデッセイ〉および〈コクーン〉要諦
◎〈オデッセイ〉の成り立ち
21世紀初頭、宇宙開発はもっとも人気のないビジネスと目されていました。前世紀に勃発した有人飛行合戦は東西冷戦の産物であり、そうした対立が消滅すれば当然、いたずらに費用ばかりかかってリターンの少ない宇宙へ飛び出そうとするインセンティヴは失われます。
わたしたちの母体となったのは、そうした閉塞状況を打ち破ろうと鳴り物入りで設立された日本のベンチャー企業でした。彼らは資金力こそ絶望的に欠いていたものの、具体的な宇宙開発のプランと、それを達成する現実的な運送手段を考え出し、野心的な投資家へさかんに呼びかけたのです。
最初は誰もまじめに取り合わなかった当計画も、NASAがプランの現実可能性にお墨つきをつけるや否や爆発的なブームを引き起こし、数年で当面のところ事業を開始できるだけの資金は集まり、資材や実際の工事を管理・発注・施工する現地企業などが次々に誕生しました。彼らはやがて効率重視のために事業提携体勢からひとつの企業へと合併、わたしたち複合物流コングロマリット〈オデッセイ〉が産声を上げたのでした。
◎〈オデッセイ〉が起こした輸送革命
NASAのお墨つきをもらった現実的な輸送手段とは、当節では毎週のように打ち上げられている〈リニア便〉のひな形でした。宇宙開発の前に立ちはだかるのはずばり、ロケットの貨物積載量があまりにも少ないという点です。ロケットは地球脱出速度――秒速11.2キロメートル――を得るためだけに莫大な燃料を積まざるをえず、実際のペイロードは2トン弱にとどまります。
さらにロケットは一回きりの使い捨てで、ほんのささいなミスで打ち上げは失敗、1,000万ドル以上の高価な機器が蒼穹の青空に失われるのです。
これらの事実を鑑みるに、ロケットでの宇宙開発はコストがかかりすぎて現実的でないという結論が導き出されます。くだんのベンチャー企業はその点をとことんまで突き詰め、輸送手段を抜本的に改革する必要があると看破しました。このとき〈リニア便〉構想が生まれたのです。
◎〈リニア便〉とは?
科学燃料ロケットでなくても、とにかく地球脱出速度に達すればよい。この自由奔放な発想を突き詰めていけば、必然的にコストの安い方法で加速できるシステムを構築するという結論にいたるでしょう。
日本のベンチャー企業は自国で実稼働しているうってつけのシステムに目をつけました。リニアモーターカーです。最大速度500キロメートル/時を誇るこの乗り物は、あくまで人の輸送を前提にしています。そのため安全性を第一に設計されており、この程度の速度にとどまっているのです。
超伝導磁石は電気抵抗による熱損失が存在しないため、電圧をかければかけるほど磁力を強めることが可能です。人の輸送を前提にしなければ何万ガウスもの磁力を発生させることになんらの支障もなく、十分な加速距離さえあれば地球脱出速度にさえ達することができるでしょう。磁気浮上と強電圧によってカプセル型ユニット〈コクーン〉を打ち出す。それが〈リニア便〉なのです。
◎〈オデッセイ〉の奮闘
いくつかあるリニア軌道敷設候補地から最終的に選ばれたのは、アメリカ合衆国の広大な大地でした。東の起点となるジャクソンヴィル港から打ち出し地点のシエラネバタ山脈のホイットニー山(4,418メートル)まで続く、長大なガイドウェイ建設。わたしたちは日本のリニア建設技術者の協力を得ながらこの大事業をやり遂げました。
用地の買いつけ、合衆国連邦政府および州議会との折衝、その他さまざまな困難がありましたが、工事は完遂されました。足かけ12
年にわたる一大プロジェクトでした。
◎〈リニア便〉のサイクル
カプセル型ユニット〈コクーン〉は直径5メートル、内寸4.75メートルの球形であり、これに超伝導磁石を搭載して加速させます。電力はガイドウェイとのあいだに起きる電磁誘導にてまかなわれ、コントロールルームにて電圧の調節を適宜行います(基本的には全自動運行)。
球形ゆえのデッドスペースこそあるものの、積載容積はおよそ50立方メートル、限界ウエイトは15トンにも達します。これは一般的なロケットの実に7.5倍に相当します。
さらに〈コクーン〉は海運業界のコンテナからヒントを得て、くり返し使用可能なように頑強な設計を施してあります。軌道上に打ち上げられたユニットは軌道周回艇によって回収され、綿密に計算されたコースを辿って地球へと送り返されます。空になった〈コクーン〉は北大西洋に着水し、回収部門によって拾われ、起点であるジャクソンヴィル港へ回送されます。
〈リニア便〉は起点を大規模な開港に選定しているため、貨物の積み替えが容易に行えるというメリットもあります。ジャクソンヴィル港を経由すれば、合衆国内だけでなく世界中から宇宙への輸出が可能になっているのです。
◎〈コクーン〉諸元
加速距離 約4,000キロメートル
最終到達速度 秒速15キロメートル(マッハ45)
冷却媒体 液体ヘリウム
発生磁力 約60,000ガウス
◎〈オデッセイ〉支部一覧
弊社は〈リニア便〉の本拠地であるアメリカ合衆国以外にも事務所を各国に展開し、日々お客さまからのご要望に迅速に対応できるよう体勢を整えております。ご用命の際にはお気軽にご連絡ください。
日本支部連絡先 052‐〇〇〇‐〇〇〇
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担当者 渉外マネージャー 日下部 真琴
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