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 ナイフは飛び道具にもなる。まるで海外ドラマで見るような光景を、彼女はやってのけた。かすかな音を立て、風のように飛んだナイフがあの人の体に突き刺さる。  それを望んだのは、刃を体に受け止めた女性。 「……ありがとう」  掠れた、小さな声で口からこぼれた礼の言葉に、少女は両手をぎゅっと強く握りしめた。 「それが、あなたの依頼だから」  少女の名前は、三日月(みかづき)。  本名ではない。いわゆるコードネームのような、職業上の名前だ。  三日月の晩にだけ、依頼を遂行する殺し屋だった。 「……さよなら……み…か……」  三日月は女性のそばにゆっくり近づき、しゃがみこむ。  胸が上下していない。呼吸が止まったことを確認して、死体となった女性の隣に、座り込んだ。膝を立てて、ぴったりよりそって、肩にそっと自身の頭をのせる。 「見て。雲が流れてる。もうすぐで三日月が見えるよ」  “三日月”が好きだった。満月は明るすぎる。三日月がちょうどいい。明るすぎず、暗いかというとちゃんと灯りもくれる。 「……お母さん。どうして私に、殺させたの」  三日月が殺した相手は、彼女の母親だった。
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