一話 出会い

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一話 出会い

 私は、目的地にいた少年を、少し遠くからまじまじと見つめる。少年とはいっても、歳に大きな差はなさそうだ。  そう考えると、歳は十六くらいだろうか。身長は百六十五センチメートル程度と私より低く、艶やかで短めの黒い髪が印象的だった。  少年はこちらに気付いたらしく、笑顔で私に手を振って、ここにいますと合図してくる。 「遅かったですね。あなたが今日からパートナーになるリーニアさんですか? 」 「ああ、合っている。私の名前はリーニア。――遅くなったのはその……申し訳ない」 「いや、別に謝ることではないですから!  すいません、そういうつもりでは――」  彼はコホンと咳払いをして、軽い自己紹介を始めた。 「俺の名前はフィーニス。上の命令により、本日からリーニアさんのパートナーを務めます。しばらくの間よろしくお願いします」  フィーニスと名乗った少年から差し出された右手を、私はしっかりと握り返した。 「よろしく、フィーニス。……後、敬語と敬称はなくていい。邪魔だから」  彼は、分かりましたと一礼した後、少し照れながら、分かったと言い直した。  自己紹介もほどほどに、私達は巨大な白い箱へと向かい始める。  左右を見渡し歩きながら、私は最近感じていた疑問を、右隣にいる少年に尋ねる。 「最近、他の人たちを見ていないんだ」 「殆ど全員シェルターに避難してるらしいですか――らしいから」  そのこと自体は把握していた。白い箱から何かが出てくることは、今のところないものの、安全を期するために、白い箱がすべて破壊されるまでは一般人はシェルターに避難することになっている。  私が見ていないというのは、白い箱の破壊にあたっている他の人間たちだった。今までは、定期的に出くわすこともあったのだが、ここ数週間は全く見ていない。 「それに――白い箱の破壊に当たっている人たちは、上が意欲的に破壊するように方針転換したとか何とかで、全員が白い箱の調査に出ているらしいから、会わなくて当然」    私の一番の疑問に答えが出る。基本的には、グループで行動をとり、白い箱破壊の任にあたることが多い。上からの命令が入れば、他者を見なくなるのも当然か。  ――しかし、私はずっと一人でやってきた。これからもそうだろうなと思っていたのだが。 「何故私にパートナーをよこしたんだろうな。ずっと一人だったのに――」 「多分、俺が一人だと弱いからです。前のパートナー……幼馴染みだったんだけど、あいつと二人で一人って感じだったので……。死んじゃいましたけ――」  最後の言葉の途中で、彼は口を咄嗟に噤む。言う予定はなかった、言うべきではなかった、言い換えるべきだった。後悔の念がひしひしと伝わってくる。  しかし、時すでに遅し。私はその事実を知ってしまった。両者ともにバツが悪そうな顔をしてしまい、お世辞にもいい空気とは言えない時間を作り出す。 「そうだったんだな……。申し訳ない、行き過ぎた質問だった」 「今のは俺が悪いですよ」 「……だが、そんな身近な人間が死んだのに、案外と平気そうな顔をしているんだな」 「平気ではないけど……死には慣れてしまったので。人って随分とあっけなく死ぬものですから。感謝の気持ちを伝えられなかったのは残念でしたけどね」 「そうか……。まあ、私は死なないさ。一人でも怪我なしの実績ありだからな」 「…………頼りにしてるよ、リーニア」  私達の出会いというのは、誰から見てもきっと当たり障りのないものだろう。
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