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四話 狂乱
誰かが見れば地獄絵図。しかしワタシが見れば楽園絵図。
斬っても斬っても終わらない。まさに楽園。まさに天国。
「いい、いい、いい! もっと! もっとワタシに聞かせろ! 命乞いと断末魔を! もっとモッとモット!!」
人が哭く。人が吼ゆ。人が喚く。
誰かが聴けば憤魂歌。しかしワタシが聴けば鎮魂歌。
死こそ救済、生こそ地獄。当然にして必然の、事実を他者に押し付ける。
剣が躍る。人が舞う。悲鳴が音楽の舞踏会に、別の悲鳴でアレンジを。白き空間に装飾足りぬと、紅としたいで飾りつけ。
どれだけ周囲を飾っても、それらはすぐに消えていく。――だからワタシは、新たな飾りを周囲に施す。次はもっと豪華で、もっと美麗に。
「かッざりつけッはぁ、オオイ方がキレイだッな! アハッ! アハハハハハハハハハハ!!!」
すぐに消える。また殺して作る。また消える。
飾りつけが終わらない無限のやり取りに嫌気がさし始める。
――綺麗で美しい空間の中で、人を殺したいのに。
そんな単純で明確な欲望を埋め尽くそうと周囲を見渡す。
絶対に消えない飾りつけは何処にあるのだろう? データではない別の何かが良い。それなら決して消えないのだから――。
そしてワタシは見つけた。殺しても決して消えない一人の存在を。
そこにいたのは、慄然とした表情を浮かべた一人の少年。剣を振るう手は止まっていた。
ワタシは獲物を捕らえたと、周囲の人間を斬って殺して血をまき散らし、彼の元へ肉薄し、優美で狂った剣を、力任せに振りかざす。
しかし、私が振りかざした狂気に満ちた剣は、彼の身体を斬ることはなかった。
剣と剣が擦れ合う金属音が、悲鳴と命乞いを上書きする。
「リーニア!? ッ……なんでっ――!! 」
フィーニスはワタシの剣をはじき、コアに向かって進んでいく。襲ってくるコピー体は既にいなくなり、コアにたどり着くのは容易であった。
フィーニスはワタシの攻撃をすべて躱して、コアのもとに到達。力任せにコアを破壊した。
破壊は消失。
部屋中にいた無辜な人間が、一瞬にして数値と化して霧散した。
同時に、私の頭の中で、拒絶したくなるほど嫌なノイズ音が鳴り響き始める。
ワタシが閉ざされ、私が自我を取り戻す。
しかし、この自我はすぐに消えると、根拠のない確信が私にはあった。
だから私は彼に頼む。非情で愚かな一つの依頼。
「オネ……ガイッ。……私を――殺せ! じゃないと、フィーニスを……コロシちゃうことになる!!」
その懇願に、フィーニスはあからさまに拒絶する。
「嫌だ! ……嫌だ嫌だ嫌だ!! 俺はリーニアのことを――大切だって思ってるんだ!」
その間にも、ワタシが私を蝕んでいく。何が言いたいのか、自分でも分からなくなってきていた。
「ワタシハ、あなたの……あい、おさ、コイ――」
その姿に見かねたフィーニスは、一回頷き呟いた。
「…………分かった」
覚悟を決めた彼は私のもとにゆっくりと着実に近づいてきて、そして――。
苦しみを減らすためか、私の身体を一気に貫いた。
私の口から、大量の血の塊が、飾りのなくなった白い床へと零れ落ちる。
「なんで……また――こうなるんだよっ…… 」
彼の目には涙が溜まり、溢れた雫が頬を伝って、下へ下へと落ちていく。
「ありが……とう」
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