四話 狂乱

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

四話 狂乱

 誰かが見れば地獄絵図。しかしワタシが見れば楽園絵図。  斬っても斬っても終わらない。まさに楽園。まさに天国。 「いい、いい、いい! もっと! もっとワタシに聞かせろ! 命乞いと断末魔を! もっとモッとモット!!」    人が哭く。人が吼ゆ。人が喚く。  誰かが聴けば憤魂歌(ふんこんか)。しかしワタシが聴けば鎮魂歌。  死こそ救済、生こそ地獄。当然にして必然の、事実を他者に押し付ける。    剣が躍る。人が舞う。悲鳴が音楽の舞踏会に、別の悲鳴でアレンジを。白き空間に装飾足りぬと、(あか)で飾りつけ。  どれだけ周囲を飾っても、それらはすぐに消えていく。――だからワタシは、新たな飾りを周囲に施す。次はもっと豪華で、もっと美麗に。 「かッざりつけッはぁ、オオイ方がキレイだッな! アハッ! アハハハハハハハハハハ!!!」  すぐに消える。また殺して作る。また消える。  飾りつけが終わらない無限のやり取りに嫌気がさし始める。  ――綺麗で美しい空間の中で、人を殺したいのに。  そんな単純で明確な欲望を埋め尽くそうと周囲を見渡す。  絶対に消えない飾りつけは何処にあるのだろう? データではない別の何かが良い。それなら決して消えないのだから――。  そしてワタシは見つけた。殺しても決して消えない一人の存在を。  そこにいたのは、慄然とした表情を浮かべた一人の少年。剣を振るう手は止まっていた。  ワタシは獲物を捕らえたと、周囲の人間を斬って殺して血をまき散らし、彼の元へ肉薄し、優美で狂った剣を、力任せに振りかざす。  しかし、私が振りかざした狂気に満ちた剣は、彼の身体を斬ることはなかった。  剣と剣が擦れ合う金属音が、悲鳴と命乞いを上書きする。 「リーニア!? ッ……なんでっ――!! 」  フィーニスはワタシの剣をはじき、コアに向かって進んでいく。襲ってくるコピー体は既にいなくなり、コアにたどり着くのは容易であった。  フィーニスはワタシの攻撃をすべて躱して、コアのもとに到達。力任せにコアを破壊した。  破壊は消失。  部屋中にいた無辜な人間が、一瞬にして数値と化して霧散した。  同時に、私の頭の中で、拒絶したくなるほど嫌なノイズ音が鳴り響き始める。  ワタシが閉ざされ、私が自我を取り戻す。  しかし、この自我はすぐに消えると、根拠のない確信が私にはあった。  だから私は彼に頼む。非情で愚かな一つの依頼。 「オネ……ガイッ。……私を――殺せ! じゃないと、フィーニスを……コロシちゃうことになる!!」  その懇願に、フィーニスはあからさまに拒絶する。 「嫌だ! ……嫌だ嫌だ嫌だ!! 俺はリーニアのことを――大切だって思ってるんだ!」  その間にも、ワタシが私を蝕んでいく。何が言いたいのか、自分でも分からなくなってきていた。  「ワタシハ、あなたの……あい、おさ、コイ――」  その姿に見かねたフィーニスは、一回頷き呟いた。 「…………分かった」  覚悟を決めた彼は私のもとにゆっくりと着実に近づいてきて、そして――。   苦しみを減らすためか、私の身体を一気に貫いた。  私の口から、大量の血の塊が、飾りのなくなった白い床へと零れ落ちる。 「なんで……また――こうなるんだよっ…… 」   彼の目には涙が溜まり、溢れた雫が頬を伝って、下へ下へと落ちていく。 「ありが……とう」  記憶の完全削除まで 残り0%
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加