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エピローグ
私はゆっくりと目を開ける。
「おはよう。――よく眠れた?」
右側から見知らぬ少年の声がする。
「だ、誰!? なんで私の部屋に!?」
私は咄嗟に身体を持ち上げ、背中を壁にくっつけた。その一連の流れに、不法侵入してきた彼は、あきれ顔で苦笑する。
「嫌だなあ、俺だよ俺。弟の顔も忘れたの? 姉さんの大切な弟、フィーニスだよ。……変な夢でも見て、記憶が混乱してたりする? 」
「……そうかも。――でも、弟だからって勝手に部屋に入ってきたら、怒る権利くらいはあると私は思うけども」
むすっとした表情を浮かべてみると、フィーニスは僅かに不機嫌になり反論してくる。
「昼になっても起きてこないからだろう! ったくもう」
「ぐうの音も出ないね。それに関しては――」
私はベッドに腰かけながら、一度軽めの伸びを行い、左にある部屋の窓から、雲一つない青い空を持った外の世界を眺める。
「あんなのいつ落ちてきたんだろう? 」
私が見ていたのは、白い箱。巨大で無機質な白い箱。世界からしてみれば、異質にして異様。
フィーニスはまたあきれ顔になって、いよいよ記憶を失ったのかと心配してくる。
「初めて見たかのような口ぶりだけど、何回も俺たちあの箱の中に入って破壊してきたじゃん。――こんな長時間記憶が混乱することある? 姉さん、記憶喪失になってたりしない?」
「それは流石にないけども」
「じゃあ、本当にどんな夢見てたの? 」
夢……。夢を見た記憶がない。ここまで混乱する夢か。一体どんな夢だったのだろう。
しかし、夢が探られるのを拒否したいと言っているかのように、徐々に混乱も収まっていき、夢のことはどうでもよくなっていく。
「で、どうするの? あの場所に向かうの? ――俺は別に、ずっとここにいてもいいと思うけどね」
「…………いや、いこう。私達のような戦うことのできる人間は、戦うべきだから。……戦えない人々がまた地上で平和に暮らせるようになるためにも」
「………………――そ、そっか。……じゃあ、俺は準備してくるから。準備でき次第、姉さんも玄関まで来て」
「うん、分かった」
フィーニスは部屋を後にする。扉が閉まる音が静謐な空間に軽く響いた。
「あっ! ご飯はリビングに置いてあるから! 朝昼兼用!」
「分かった! ありがとう、フィーニス!」
立ち上がる前に、もう一度、明らかに異質な存在でありながら、そこにあって当然と思わせてくる巨大な白い箱に目を向ける。
時に思う――生とは何か、死とは何か。生とは幸福なものであり、死とは不幸なものなのであろうか。
生きていることは幸せなこと――私は今でもそう思う。
しかし、本当にそうなのだろうか。
何故このようなことを考えてしまうのか。自らの思考でありながら、その理由を理解できない。
私は頬を軽くたたいて立ち上がり、綺麗な戦闘服に着替える。
そして私達は扉を開ける。
世界の平和を取り戻すために。
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