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プロローグ
「ありが……とう」
私の掠れた言葉が、広いのか狭いのかさえ分からない、白き空間に響き渡った。
目の前にいる少年の握る、美しく――それでいて、暴れたいという欲求を微塵も隠す気配のない直剣が、私の心臓部に突き刺さっていた。
大量の血が、平滑な床に垂れ続け、白い床が紅い床へと変わっていく。
――既に痛みはない。
しかし、死ぬには、まだ足りない。
「うっ……ぁぁああああああ!!!!」
涙をこぼし続けながら、彼は直剣をもう一度強く押し込んだ。
身体を貫通する鈍い音が空間を木霊し――強く、靭く、己に死を理解させようとしてくる。
彼の表情に宿るのは――哀愁、憎悪、悔恨、悲嘆、謝罪、狂乱。
剣が抜き取られると同時に彼は後退する。支えを失った私は、傷口を手で押さえながら、その場に頽れるしかなかった。
意識が朦朧としていく中で、彼の狂ったような笑い声が鼓膜を震わせる。
――少年は誰だったか。――もう……憶い出せない。
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