会いに来ない王子

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 婚約者に会わないまま、この国へ来て今日で2ヶ月。 「はぁ……」  ここに来てから何度目のため息だろ。  窓の外は活気があって皆楽しそう。  ……今なら外にでても婚約者とか気がつかれないんじゃないかしら?  うん、外に出よう。  そうしよう。  それがいいに違いない。  服は街にとけ込める感じのものを選ばないと。  けれど、私に用意されているのは、レースやフリルが付いた、綺麗な服ばっかり。  婚約者のご機嫌取りの為に『……綺麗な物だけ贈っとけ』的な。  手持ちのお金も無い事だし、着ていった服を売ろう。それで服を買えばいいか……。  外に出るのは簡単だった。  この家には女中も1人、侍女1人、あと護衛の兵士が1人。婚約者が誰かに襲われたりする可能性だってあるのに、兵が1人って……。  皆それぞれ仕事が手一杯だから、簡単に外へ出られた。 「あの……」 「ん?ないだい?」 「この辺で質はありませんか?」 「ああ、それなら次の角曲がって3件目だよ」 「ありがとうございます」  私はすぐにそこへ向かった。 「すみませーん。どなたかいらっしゃいませんか?」  店は開いてるのに、人の気配がまるでない。  どうなってるの、このお店……。 「いらっしゃいませ」 「うひゃ!」 「…どうしました?」 「申し訳ありません。急に後ろから声をかけられたものですから……」  まさか、私の後から入ってきた人が店員だなんて思わなかったわ。 「いえ、こちらも、驚かすような事をしてしまってすみません」  ニコっと笑った顔は爽やかだ。 「ところで、何か質にいれるものでも持ってきてるのですか?見た所、何も持っていないように思いますが……」 「今着ているこの服を、質に入れたいのです」 「この綺麗な服をですか!?む…無理です!うちでこれを引き取れるようなお金はありません」 「いえ、そんなにお金はいらないの。この街で服を買えるお金と、ご飯を食べられるくらいでいいの。」 「ですが、とても高級なものですよ。それくらいの金額でいいんですか?」 「ええ。こんな服、着る事ないもの」 「何故ですか?」 「私はずっとこの街で暮らすつもりだから、こんな服より皆が着てるものを着たいの」 「プレゼントされた品ではないのですか?」 「もしそうだとしても、顔も知らない人から貰う物なんて、ただのゴミよ」 「……そうでしたか。では、買い取りいたします」 「ありがとう!」  こうして、私は500ニードルを手にいれた。
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