会いに来ない王子

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 手に入れた500ニードルで、私はスカート3枚とブラウス5枚を買った。それでもまだ、278ニードル残っている。 「8枚も買って、まだお金があまるなんて……」  今までなら、服はまわりに合わせて流行りを着るのが当たり前。見栄の張り合いみたいな感じで面倒だったけど、これからは好きな服を着れる。  買い物が楽しいと思ったのは、今日が初めてかもしれない。これを続けていくなら、やはり別居必須よね!  1人で街を歩く事は殆んどなかったから不安だったけど、自由に行きたいところに行けるのは最高の気分!  ちょっとお腹がすいてきたかも……  何か食べたいけど、1人でお店に入るのはさすがにハードルが高すぎるわ。  1度家に帰る?でも見つかったら外に出れない可能性もあるよね。それだけは避けたい。  う~ん……  悩んでいると、どこからか良い匂いがしてきた。それにつられて行ってみると、いくつか屋台があるのを見つけた。  そこには私が今まで1度も見た事ない食べ物が売られている。  平たい生地に野菜がのっていて、その上から赤いソースをかけてある食べ物がとても気になる。その辺を見回すと、それを買ったお客は立って食べていた。  食べてみたい……。そして、私もあんな風に立ってたべたい。何だか格好いい!  看板にはベイと書いてある。この食べ物の名前かな? 「1つ下さい」 「はいよ、2ニードルね。お!綺麗な姉ちゃん、この辺じゃ見ない顔だな」  話しかけられた!  私の身分を知らない人は、こんなに気安く声をかけてくれるんだ。 「最近引っ越してきたばかりです」 「そうか!じゃ、引っ越し祝いだ。野菜多めにのっけてやる」 「ありがとうございます!」 「おう!また来いよ!」 「はい!」  顔は怖いけど優しいおじさんでよかった。  服を買う時もだったけど、1人で買物をするだけで緊張してしまう。別居して街の暮らしを楽しむなら、これも慣れないとね!  皆を真似て、今買った『ベイ?』を食べてみる。 「美味しい!!」  2口3口と食べていくうちに、顔にソースがついた……と思う。 「お姉ちゃん、顔よごれてる~」 「だっせぇ~」 「コラ!失礼でしょ!ごめんなさいね」  まだ5〜8才くらいの兄妹につっこまれてしまった。 「いえ、気にしないでください」  やっぱり汚れてた。……恥ずかしい!  顔をふくにしてもハンカチ持ってないんだよね。いつも用意してくれてたから、思い付きもしなかった。 「ハァ…」  今日まで自分で何もしていなかったんだって、身に染みる。こうやって1人になってみて初めてわかった。  あの家で、()()()()のふりなんて、馬鹿みたいな事を言ってたけど、街に来てみたら何も出来ない女じゃないの。  手にはまだベイがのこっている。  もう顔にソースがついちゃってるんだし、これ以上ついても恥ずかしいのは一緒だよね。気にせず食べよう。開き直ればなんともなかった。  私って実は結構図太いのかも……。
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