2843人が本棚に入れています
本棚に追加
手に入れた500ニードルで、私はスカート3枚とブラウス5枚を買った。それでもまだ、278ニードル残っている。
「8枚も買って、まだお金があまるなんて……」
今までなら、服はまわりに合わせて流行りを着るのが当たり前。見栄の張り合いみたいな感じで面倒だったけど、これからは好きな服を着れる。
買い物が楽しいと思ったのは、今日が初めてかもしれない。これを続けていくなら、やはり別居必須よね!
1人で街を歩く事は殆んどなかったから不安だったけど、自由に行きたいところに行けるのは最高の気分!
ちょっとお腹がすいてきたかも……
何か食べたいけど、1人でお店に入るのはさすがにハードルが高すぎるわ。
1度家に帰る?でも見つかったら外に出れない可能性もあるよね。それだけは避けたい。
う~ん……
悩んでいると、どこからか良い匂いがしてきた。それにつられて行ってみると、いくつか屋台があるのを見つけた。
そこには私が今まで1度も見た事ない食べ物が売られている。
平たい生地に野菜がのっていて、その上から赤いソースをかけてある食べ物がとても気になる。その辺を見回すと、それを買ったお客は立って食べていた。
食べてみたい……。そして、私もあんな風に立ってたべたい。何だか格好いい!
看板にはベイと書いてある。この食べ物の名前かな?
「1つ下さい」
「はいよ、2ニードルね。お!綺麗な姉ちゃん、この辺じゃ見ない顔だな」
話しかけられた!
私の身分を知らない人は、こんなに気安く声をかけてくれるんだ。
「最近引っ越してきたばかりです」
「そうか!じゃ、引っ越し祝いだ。野菜多めにのっけてやる」
「ありがとうございます!」
「おう!また来いよ!」
「はい!」
顔は怖いけど優しいおじさんでよかった。
服を買う時もだったけど、1人で買物をするだけで緊張してしまう。別居して街の暮らしを楽しむなら、これも慣れないとね!
皆を真似て、今買った『ベイ?』を食べてみる。
「美味しい!!」
2口3口と食べていくうちに、顔にソースがついた……と思う。
「お姉ちゃん、顔よごれてる~」
「だっせぇ~」
「コラ!失礼でしょ!ごめんなさいね」
まだ5〜8才くらいの兄妹につっこまれてしまった。
「いえ、気にしないでください」
やっぱり汚れてた。……恥ずかしい!
顔をふくにしてもハンカチ持ってないんだよね。いつも用意してくれてたから、思い付きもしなかった。
「ハァ…」
今日まで自分で何もしていなかったんだって、身に染みる。こうやって1人になってみて初めてわかった。
あの家で、出来る女のふりなんて、馬鹿みたいな事を言ってたけど、街に来てみたら何も出来ない女じゃないの。
手にはまだベイがのこっている。
もう顔にソースがついちゃってるんだし、これ以上ついても恥ずかしいのは一緒だよね。気にせず食べよう。開き直ればなんともなかった。
私って実は結構図太いのかも……。
最初のコメントを投稿しよう!