王子様とクール様

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「はじめまして。私はラドクリフ伯爵夫人の侍女、ニナ・スミスと申します。」 エドワードの隣にいるのだから、私はシンプルに挨拶するだけでいいよね。 「ほう、侍女が何故ここへ?しかも殿下と一緒に。」 こんな事を聞いてくる人がいるなんて…。またシャロンのような女を連れてるんだろうって馬鹿にしてるのまるわかりじゃない。 「それは殿下に聞いてくださいませ。」 こういう人って面倒なのよね。エドワードが答えればいいのよ。 「夫人の侍女はカタサ語の通訳をした事があると聞いてね。話せる人の少ない言語でもある。カタサから来てくれている客人に不快な思いをさせるのは失礼だと考えたのですが…。そうですね、侯爵が話してくれるのであれば、彼女を今すぐに退場させても構いませんよ。」 「…そうでしたか。さすがエドワード殿下。」 …何故かしら。エドワードの表情にリード公爵と似たものを感じたわ。 いつもこんな感じの人なの…?シャロンへ向けられる笑顔が本物で、今のは仕事用、胡散臭いのは私用なのかしら…。 エドワードの挨拶する人に、私の知りる人は含まれていなかったわ。 それっぽい人も見当たらないのよね。 もしかして騙された…? 「後1人、誰だか気になる?」 「ええ、私の知り合いが本当にいるのか、 確認しておりましたの。クール様以外に見知った方はいませんわ。」 「ニナ、君は気がついていないようだけど、 2回あったくらいの侍女が『クール様』と呼ぶと思う?」 「…そう呼んでくれ…と仰ったので。」 無意識で呼んでた。エドワードが『クールが来た』って呼んでたのにも引っ張られてる。油断してた。 「殿下、これは舞踏会です。どなたかと踊って来て下さい。待ってる女性が沢山いらっしゃいますよ。私は壁際にいますので。」 「はぁ…面倒だけど仕方ない…。」 「いってらっしゃいませ。」 …最悪だわ。クール様が来た事もそうだけど、仲の良さを見たかったのよ…。迷いもなくファーストネームで呼ぶ所を…。 「ニナ、大丈夫か?」 気が付けば隣にはクール様がいた。 「今からはシロブ語で話すんだ。ここに話せる奴はほぼいない。」 シロブ、私達の国で使われる言語の1つ。 「わかったわ。」 「で、どうだ。」 「最悪よ…私が来るのを知ったら、クール様は来ると確信してた。それに私達が幼馴染みだ…と言ってきたわ。」 「で、何て答えたんだ?」 「もちろん否定したわ…。けれど慣れって怖いものね。数回あっただけの侍女が『クール様』と呼ぶほどの関係なのか…って。」 「なるほど、殿下も本気で向かってくる気になった…って事か。」 「どういう事?」 「今は心理的にニナを弱らせて追い詰めよう…って作戦だな。今まで何も仕掛けて来なかったのが不思議なくらいだ。」 「嫌な人。優しいって噂は嘘なのね。」 「基本的に優しい。だが仕事は別物だ。」 仕事扱い… 「ニナがニーナでないと()()()判断した時だけだ。殿下が引く時は。」 「でもそれってチャンスでもあるよね?」 「簡単に勝てる相手ならな。」 そういえばステーシーも言ってたよね。仕事が出来る男だった。って。 「どんな人だとしても、私は逃げ切るわ。 結婚したら別居する計画も進めるつもりよ!……捕まって監禁される可能性ってあるかな?」 「…無いと思うぞ」 「思うなんだ…」 「ずっと一緒にはいてやれないが、困った事があれば言いに来るんだぞ。それから、知らない人にはついていかないように。ドレスを着てる()()()は妹だからな。」 「うん。」 今だけ…。
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