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「振られるならさ、『ごめんなさい』と『ありがとう』どっちがいい?」
「——どっちを言われたの?」
「質問を質問で返すのは良くないよ。ついでに振られた前提で質問してくるのも良くない」
「じゃあ振られてないのね」
押し黙る友人に、わたしはそっと頭を撫で抱き寄せた。よしよしと赤子をあやすように、優しく愛しむように、友人を抱きしめた。
友人もまた、わたしの腰に手を回し制服を握りしめる。
泣き出すかと思った友人は身体をわたしに預け、されるがままだ。そしてぼんやりと窓の外を眺めていた。
「泣かないの?」
「泣けるかなーと思ったけど、思ったより泣けないようです」
「そっか」
友人はわたしの肩に頭を乗せ、小さく息を吐いた。わたしも友人にもたれかかるように、そっと頭を寄せる。
教室にはわたしと友人の2人きり。
放課後の穏やかな時間の流れに身を任せる。グラウンドからは運動部の掛け声が、校内からは吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。
「——先輩のこと、本当に好きだったの」
「知ってるよ」
「『好きです』て告白したら『ありがとう』て。『気持ちはとても嬉しいけど、付き合えない』『好きになってくれてありがとう』て。一言も『ごめん』て言わなかったの」
「言って、欲しかった?」
「わかんない——だけど、そこも先輩らしいなって思った」
友人はわたしの顔を見て微笑んだ。泣きたいのか笑いたいのか——胸が締め付けられる、そんな表情をしていた。
「——わたしなら、ごめんて言って欲しいな」
「どうして?」
「少しでも、その人の心に残って欲しいから。どんな形でも。振った罪悪感としてでもいいから、心に残りたい」
「そっか、そういう考えもあるね」
友人は笑ってわたしの背中を叩いた。
わたしは今より少しだけ力を込めて、友人を抱きしめる。
「……帰ろっか」
「……そうだね」
「ファミレス、寄って行かない?」
「今日は奢るよ——ドリンクバーだけどね」
「ケチ」
友人は笑って席を立った。翻るスカートと、揺れる肩下までの髪と、そして右目にある泣き黒子が、とても愛おしい。
「美月」
「なあに?」
わたしは美月の背中に抱き付いた。わたしよりも小さくてか細い身体を抱きしめて、肩口に顔を埋めた。
「陽ちゃん、どうしたの? ——泣いて、くれてるの?」
「違うよ……ただ、こうしたくなっただけ」
——そう、だから、わたしを振るときは『ごめんね』て言ってね。
だけど、きっと美月は言わないんだろうな。美月を振った先輩と同じように『ありがとう』と言うんだろう。
だって、美月はそういう子だから。
だから、わたしもこう言うの。
『あなたを好きになってよかった。ありがとう』
茜色に染まったわたしたちを、黒く長く伸びた影が抱きとめていた。
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