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おす!はじめましての人もいるだろうか。オレはクラスタ。
WEB小説『勇者は絶対死にません〜オレと仲間の90日〜』の主人公で職業、勇者20歳!
勇者のオレは仲間と共にまいにち、マイニチ、毎日!あらゆる敵を相手に戦い続けている。
タイトルの“勇者は絶対死なない”ってところを見て欲しい。
この物語はオレ達のパーティが絶体絶命的状況に置かれるところからの、仲間同士が知恵と体力の限りを尽くして状況打破、そして旅は続くのでした…的に展開してゆく物語だ。……そして実は物語には描かれていないが、その日々のお陰でオレ達は全員満身創痍だ。
「クラスタさぁん、もぅ僕身も心も限界ですよぅ」
魔導士のユウが半べそかきながら訴える。
「オレだって戦いに明け暮れるだけじゃなくてもっと有意義なことに時間とページを費やして、読んでくれてる人と楽しみたいよ!」
…と、言ったところで物語本編はおかまいなしで、今描かれているエピソードの中ではオレ達は山を荒らして大岩を食べ散らかす魔獣とまさに臨戦態勢だ。
『死にそうな目にあって死なない物語の登場人物』の宿命とはいえ、これがまた本当に辛い。
すると突然、今まで静かにユウの泣き言を聞きながら傍にいた、神託の乙女リリィが声を上げる。
「あ!来ました。神託です!」
オレとユウは顔を見合わせる。
「私たちがどうしたらこの日々の戦いから安息の日を得られるのか、神託が降りました」
「ほ、ほんとう?」
オレもユウもリリィの言葉に飛びついた。
「はい。では神託を与えます!」
物語ではおなじみのリリィの決め台詞と共に両手を空に向かって高く掲げた。そこに強い光が差し込んでくる。
出た!物語では戦いの中で降りた神託は一撃必殺で相手に言うことを聞かせる。言葉に神が宿るのだ。
オレ達は息を呑んで次の言葉を待った。
「読者に協力を得よ。…以上となります」
リリィは一礼する。
へ??
「それ…だけ?」
「そうみたいですぅ」
リリィは申し訳なさそうに答える。
しばらくの間、オレ達3人は円陣を組んでだまったままそれぞれの思いにふけっていたが、ユウが遠い目をして口火を切った。
「協力ってどうしたらいいんですかねぇ、クラスタさん」
神託なのだからここは従うという選択肢以外はないのだが、想像つかない部類の言葉、降りてきちゃった感がある気がしないでもない。
「そうだなぁ…」
オレも即答できずにいるとリリィが遠慮がちに手を挙げる。
「ん?どうした?リリィ」
「あ、あの…例えば、この物語を読んでる方々に、こちらから念を送ってみるというのはどうでしょう?思う力が大きいほど現実になりそうな気がするのですが」
下を向いて考え込んでいたユウがパッと顔を上げた。
「そうですね!それならできそうです!クラスタさん、これ、魔導士が扱う術のやり方と似ている気がします。僕たちが魔法を使えるのは魔力や呪文はもちろん必要なんですが、魔力は力の源、呪文はその力を集約させてどの方向に使うかの鍵みたいなものに過ぎず一番重要なのは“それがそうなると知っていてその思いを外に波及させることができること”なんです。だとしたら今回も僕たち3人で力を合わせて思いを一つにし、物語の展開はどうあれ、読んでくれてる人たちに僕たちの望む姿が実は本来あるべき姿なのだと伝え続けたら…」
そうか!
「もしかしたらその思いが波及してこの物語に影響を与えるかもしれない?」
「可能性はゼロじゃないと思います。神託ですし!」
リリィが力強く答えると、ユウも深く頷いた。
こうしてオレ達はリリィの神託とユウの発案を元に3人で綿密に計画を立て始めた。
オレ1人だったらきっとこうはいかなかっただろう。物語の登場人物だから仕方がないとあきらめきって剣を振るっていたに違いない。
もちろん物語の中で、敵と戦っている最中にも2人には助けられているけど今ほど2人の存在、オレ達が仲間であるということをありがたいと思ったことはない。
オレ達が今望んでいる安息の日。
怪我に悩むことなく、美味いものを食べ、草むらに寝転んでのんびり時間を過ごす…。
最終的に、最高の時間を過ごすイメージをオレ達が物語の中でセリフを話す時にバックイメージとして常に思い描き、読者に伝えるようにするのがベストという結論に至った。
「脳内に直接語りかけるのですね?」
リリィは嬉しそうにしている。
リリィやユウはこういうことは得意分野っぽい。
当たり前か。戦闘で使ってるし百戦錬磨だよな。
オレにそんなことできるのか?
「クラスタさんにもできますよ。だって敵とやりあう時に闇雲に斬りかかるわけじゃないでしょう?」
「そりゃあ、そうだよ。なんというか、目算?そこに斬りかかったらこうなると既にわかっているというか…」
「それと同じです。既にそういう状態であるというイメージを持って話せば良いんです!」
そうか。なんだかできそうな気がしたぞ。
オレ達は通常通り物語本編での過酷な戦いの中、
「やぁっ!」
とか
「やらせるもんか!」
とかいうひとつひとつの言葉の裏にバックイメージを思い描いて来る日も来る日も読者に訴えかけてみた。
すると、どうだろう!
作品につくコメントが日に日に変わってきたではないか!
もともとよくついたコメントは
「次の戦いが楽しみです!」
とか
「3人が追い詰められれば追い詰められるほど最後の危機回避が神的出来事に思えます!」
なんて感じで、登場人物的には到底ありがたいとは思えないような“危機推奨”コメントだった。
それが今は
「たまには3人がゆっくり温泉に入るところも見てみたいです!」
とか
中にはズバリ、
「戦い以外のエピソードも読んでみたい」
なんていう嬉しいコメントがつくようになって来た。
作者も満更ではないらしく、今、『勇者は絶対死にません〜オレと仲間の90日〜』の下書にはオレ達がとある国の王女を救った後、その国で歓待されるエピソードが保存されている。
今ではオレはもちろん、リリィもユウも物語本編の今後の展開をとても楽しみにしている。
物語の勇者なんて、ろくなもんじゃないって思うこともあったけどオレと読者と仲間達、ひとつの世界をみんな楽しく生てるな!オレはぎゅっと剣を握り、仲間たちと新しい一歩を踏み出すのだった。
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