黒宝

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「おら、河田、舐めんじゃねえぞ」 河田昌幸(かわたまさゆき)は、腹を抱えて蹲った。 そこへ追い討ちをかけるかのように、志賀広大(しがこうだい)が蹴りを入れた。 「お前みたいな雑魚がな、俺たちと同じ空気吸っていいと思うなよ」 魚谷幹雄(うおたにみきお)も、広大に続いて昌幸の尻を蹴り飛ばした。 「ご、ごめん、ごめん」 ひたすら謝るだけの昌幸。 瞑った目の隅に、涙が溜まっていた。 「へっ、これに懲りたら二度と舐めた真似すんじゃねえぞ」 広大は、昌幸の頭に唾を吐き捨てた。 はははっと笑いながら、幹雄と一緒に屋上を去っていった。 舐めた真似、ってどう言うことなのだろうか。 今日なんかも、普通に教室で弁当を食べていただけだ。 それだけで、「お前ごときが何教室でメシ食ってるんだ」ということで屋上で私刑にされた。 トイレでご飯を食べていれば、こんな目には遭わなかったのだろうか。 いや。 決してそんなことはない。 彼らは何かと理由をつけては、昌幸をいじめの標的にしてきた。 さっき、『二度と舐めた真似するな』と言ってはいたが、彼らの真意は「舐めた真似をしろ」 だ。 とにかく、昌幸を甚振る口実が欲しくて仕方がないのだ。 「はあ、もう疲れた」 屋上の真ん中で、ひとり胡座をかいて俯いていた。 「おっす」 聞き慣れない声だった。 随分と太くて、逞しい声が耳にこだました。
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