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「えっと……そしたら、何でか研究員の人が来て、私とチューリップさんはここにいるんですけど」
小学二年生のわりに、大人びたしっかりものの少女は。首をこてん、と可愛らしく傾げて言った。
「何でここにいるのか、全然わからないです。お父さんとお母さんがいいよって言ったって聞いたけど。えっと、チューリップさんはどこにいるんですか?」
「……あなたのチューリップさんは、今別の部屋にあるわ。とても珍しいお花だったから、私達もしっかり見せてもらいたくてね」
「あ、そうなんですね!とっても綺麗なお花ですよね!」
にこにこと笑う少女、西田のか。私はただただ、笑顔を取り繕って誤魔化すしかない。
彼女の両手は、傷だらけだ。彼女が無意識に、水の代わりに自らの血液を鉢に与えていたがゆえに。
咲いたチューリップの葉は、彼女の血を吸って真っ赤に染まっていた。そしてあちこちから、虫のように蠢く短い触手をにょろにょろと生やしており――花の中心には、にやにやと笑う人の顔が存在していたのである。その顔は、目の前にある西田のかとそっくり同じ顔だった。
“願望を吸う花”。私達は便宜上、そのチューリップをそう呼んでいる。
球根は普通のチューリップとまったく見分けがつかない。だが恐ろしいことに、本人には普通に見えるチューリップが異形の花を咲かせ――幻覚を見せつつ、育てた人間の願望を歪んだ形で叶えてしまうという力を持っているのだ。
彼女は、クラスの先生にも、学校の子供達にも不信感があった。
ゆえに無意識化で彼女が願っていたことを、チューリップは現実のものとして叶えたのだ。
花を見せ、異形の花を認めなかった者達は、次々と不可視の力で吹き飛ばされた。
ある者は逃げようとして足をちぎられ、ある者はぺしゃんこに潰されてひき肉になり、ある者は天井に叩きつけられて上半身がぐちゃぐちゃに潰れ、ある者は硝子を突き破って階下に落下した。
阿鼻叫喚の地獄絵図に、洗脳されて幻覚を見せられている西田のかは気づけない。自分が何をしているのかもまったく自覚がない。そして、自分達が永遠に彼女からチューリップを引き離して“監視”しようとしていることがバレたら――全力で抵抗してくることだろう。それこそ、どんな手を使ってでも。
――原因がわからない、何が取り憑いているのかもわからない恐ろしい物体や生物はこの世に数多存在する。
笑顔の下。私は冷や汗をかくしかなかった。
――私達が知っている恐怖なんて。きっと、この世界のほんの一部にすぎないのだわ。
あのチューリップは今も。血濡れたような真っ赤な花びらで、けたけたと笑い声をあげているのだろうか。
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