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今、俺の住んでいる土地に、椚開発に関連する会社及び店舗は存在しない。 チラリと盗み見た事業計画書(これは父さんが一昨年辺りから椚開発の株主の端くれとなったから決算期に送られてくる)によると、向こう3年間の新規事業立ち上げは計画されていない。 ――――――俺の憂鬱は濃くなるばかりだ。 だけど、こうやって落ち込んでぐずぐずしていたら、きっと真人さんはまた悩んでしまう。 俺のためなら・・とかいって、きっとあの人は自分の進む道を簡単に変えちゃうと思う。 そんな事させるわけにいかない。真人さんの人生は真人さんのものだ。―――わかってんだ俺だって! だから、おめでとうがんばって、と笑顔で言ってあげたい。俺の気持ちはずっと変わらないよ、と抱きしめてあげたい。―――――間違いなくこれは本心だ。 「・・・ぅわ。泣いてるし」 「ちょっと苛めすぎたか・・?」 「・・・(グスッ)―――――、な゛い゛でな゛い゛っ!」 ふたりがイタイ目で俺を見ている。 ちなみに、真人さんは連休帰れなかったから、報告がてら週末利用して実家に帰省すると言って昨日からいない。 内定の連絡がきたその日のうちにウキウキで帰ってしまった。・・・だから俺は、真人さんから直接内定の報告を受けていない。――――――無念である。 何か・・・とてつもなく寂しい。 真人さんは寂しいと思わないんだろうか・・・。離れることに不安はないのだろうか。 はっきり言って俺は不安で仕方ない。――――――女々しいけれど、これも本心。 「――――そういえば耀、お前進路どうするんだ?」 「どんより」を背負って蹲る俺に、父さんがそう言えばと聞いてきた。 俺は首だけを回し父さんを見て、「――――未定。・・・もう引きこもりたい」と、投げやりに答える。 ―――――クッションが飛んできた。カバーのファスナー部分が蟀谷に当たって痛かった。 「馬鹿者っ!働くか勉学に励むかどっちか決めろ!―――――あ、言っておくけど来年新卒はとらねぇぞ。よって高卒での我社への入社はお断りだ。働きたいのならある程度知識を付けて来い」 「・・・俺、瀬能建設の3代目だもん。爺ちゃんと約束したから絶対継ぐんだもん」 「だもん、言うな。そのデカい図体と野太い声で気色悪ぃな。――――親父と約束とかしてたのかお前。初耳だなおい。・・・まぁ、どのみちそれが最善だろうな。だったらやっぱり大学行って勉学に励むしかねぇだろうな。――――あー、大工になるなら話は別だ。怜にイチから仕込んでもらえばいい」 「・・・大工もいいけど・・、俺やっぱり設計がいい。んでいつか真人さんと一緒に住む家、設計して怜兄ちゃんに建ててもらうんだもん。・・・グス」 ・・・俺だって夢はある。 小さい頃から会社の事務所が遊び場だった。 父さんや翔ちゃんの膝に乗せられて図面を引くのを見ていたから、子供心にお絵描きの延長みたいな感覚で設計という物が身近にあった。 自分の描いたものが形となって残る。―――――それってすごい事だ。 恥ずかしくて面と向かっては言えないけれど、実は父さんの仕事に憧れている。俺も、いつかは父さんみたいに・・・なんて思っていたりする。
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